写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 日本郵船は、海運を中心にした統合物流企業である。同社のDXの取り組みへの評価は高く、2019年に「IT Japan Award」のグランプリを受賞、2021年には「DX銘柄」、2022年には「DX注目企業」に選定されている。

 同社は、2018年策定(以降、一部更新)の「船舶の技術・イノベーションロードマップ」に沿い、高度船舶管理システム、陸からのリアルタイム遠隔診断・監視、画像処理技術を活用した見張り支援などのデジタル技術活用を推進。このロードマップ上では、有人自律運航システムの展開も予定されている。

 注目すべきは今年3月に発表された新中期経営計画。2050年からのバックキャストで策定された新たな経営計画だ。

 ここでは「総合物流企業の枠を超え、中核事業の深化と新規事業の成長で、未来に必要な価値を共創します」というビジョンを掲げ、成長戦略としてABCDE-X(【機軸戦略】AX=両利きの経営、BX=事業変革/【支えの戦略】CX=人材・組織・グループ経営変革、DX、EX=エネルギートランスフォーメーション)を策定。DXは、5つの成長戦略の中の1つという位置付けとなっている。

 今回は海運の課題解決に積極的に取り組む日本郵船のDX戦略を紹介する。

【データ】運航船からのビッグデータを収集

 2008年から運用を開始した船上データを蓄積する船舶パフォーマンスモニタリングシステム「SIMS」(Ship Information Management System)は、現在では同社グループが運航する約200隻の船舶に搭載されている。

 このシステムは、運航船のエンジンや各種装置に搭載されたセンサーからのIoTデータや、船舶の詳細な運航状態や燃費などの多様なビッグデータを収集するように進化してきた。

 そして、同社は運航船から衛星経由で定期送信される船舶の航海・機関・安全の情報や環境に関するデータと社外データを統合した船舶データレイク「NYK Ship Data Platform」を整備。運航管理や顧客企業との現況共有、多様なデータ解析による業務改善に活用している。

 なお、データの送信間隔を毎時から毎分に変更しリアルタイム性を向上させたSIMS3の試験導入を2021年夏から始め、順次切り替えていく計画である(SIMSのデータは、後述する異常探知や最適経済運航などへ活用され、効果を上げている)。