ここ数年、首都圏では賃貸物流施設の空室率が高止まりする傾向がはっきりしてきた。その背景には、需要を上回るほど物流施設の建設ラッシュが続いてきたことがある。だが、その一方で、首都圏以外の地域ではまだ物流施設に対する需要は旺盛だ。こうした市場環境は今後どう変化していくのか。そして多くの物流施設を開発してきたデベロッパー各社は、それにどう対応するのだろうか。
物流メディア「ロジビズ・オンライン」編集長、『月刊ロジスティクス・ビジネス』副編集長の藤原秀行氏に聞いた。
ECの市場拡大とともに需要が増した賃貸型物流施設
――2024年、2025年は、物流施設が大量に供給される見通しのようです。そもそも、なぜデベロッパー各社が、こぞって物流施設の開発を手掛けるようになったのでしょうか。
藤原秀行氏(以下敬称略) かつて日本ではメーカーなどの荷主企業は、製品や資材を保管しておく倉庫を自前で持つのが一般的でした。けれども2000年代の初めごろに、倉庫という資産を自社で抱えるのではなく、借りる方向にシフトし始めました。
この動きにいち早く対応したのが米国発祥で日本に進出したプロロジスや、倉庫の建設を得意としてきた大和ハウス工業などでした。これらのデベロッパーが、物流施設を借りて使うという企業のニーズを掘り起こし、賃貸型物流施設の市場が本格的に立ち上がっていきました。
こうした動きは2008年のリーマンショックにより一時停止しました。しかし、2010年代に再び賃貸型物流施設への需要が回復していき、その後、日本でもEC(電子商取引)市場が拡大するのに伴い、多品種の商品を保管できる上に入出荷用の作業スペースを広く確保することが可能な、大規模な賃貸型物流施設を中心に、需要はさらに拡大していきました。
――しかし最近、首都圏では物流施設の空室率が高止まりしていると言われています。
藤原 それは供給が多いからです。特に首都圏は大消費地であり、産業も集積していますから、物流施設の需要が非常に多い。しかし、首都圏ではエリアによっては需要を上回る供給が見られました。その結果、首都圏における大型マルチテナント型物流施設(LMT)市場は需給バランスが緩み、不動産関連サービス大手シービーアールイー(CBRE)の調査によれば、2024年第3四半期(7~9月)の空室率は10.1%に達しました。四半期で空室率が10%に到達したのは2010年の第4四半期(10~12月)以来、13年9カ月ぶりのことです。
物流施設は、荷主との賃貸契約期間が5年から10年、さらに15年と、オフィスの賃貸契約期間より長いのが通例です。デベロッパーなどの供給側から見れば、長期間にわたって安定的に賃料収入が見込めることになり、魅力的な市場と言えます。
そのため近年は物流施設開発に参入する企業が増え続けています。建設だけでなく、投資をしている企業も含めると現在は70社以上あると見られています。