左がデジタライゼーション戦略グループ DX推進チームのチーム長を務める尾崎敏秀氏、右がデジタライゼーション戦略グループ所属の五十嵐祐介氏

個別の案件はプロジェクトを組んで課題解決に努める

 海運業を主軸とし、人々の豊かな暮らしに貢献してきた川崎汽船は、2021年に「DX戦略」を公表し、DXへの取り組みを本格化させた。長年にわたり培ってきた安全運航技術に加え、デジタル技術を活用した新たな価値創出に努めており、2022年には経済産業省が定める「DX認定事業者」に選定された。DX推進の中心となるデジタライゼーション戦略グループ DX推進チームのチーム長を務める尾崎敏秀氏と、同じくデジタライゼーション戦略グループ所属の五十嵐祐介氏に、川崎汽船のDXへの取り組みを聞いた。

――川崎汽船がDXに取り組んだきっかけを教えてください。

尾崎 当社は、2017年にコンテナ船のオーシャン ネットワーク エクスプレスという定期コンテナ船の合弁会社を立ち上げました。コンテナ船事業は弊社の売り上げの約半分を占めていましたので、それをジョイントベンチャーに移すということは、かなりのインパクトがありました。それがきっかけで、われわれが今後注力するべき仕事は何か、大切にすべきお客さまはどこにいるのかということを改めて見直す一環から、2019年にマーケティング戦略室が設立されました。

 また、同時期にお客さまからも、環境問題の一環としてCO2排出量の可視化をしてほしいとか、さまざまなデータをデジタル化してほしいといったような要望が高まってきましたので、AI・デジタライゼーション推進室も同年に設立されました。

 2020年にはこれらの部署が統合し、AI・デジタライゼーション戦略グループという形になりました。さらにDXの加速に伴って、2022年2月に情報システムグループと統合し、現在私が所属するデジタライゼーション戦略グループという部署名になりました。このように、短期間でかなりフレキシブルに組織も発展してきています。

――DXを推進するにあたり、ステップは設定されましたか。

尾崎 明確なステップというものはありませんが、まずはデジタル化をどんどん進めて、安心できるITセキュリティーの基盤を作り、また人材育成にも力を入れています。これら3つが土台にあってこそのDX推進と考えています。ただ、それが完遂するのを待ってからDXを始めるのでは世の中から遅れをとってしまいますので、並行して取り組んでいるのが現状です。

――DXは、どういったことに取り組んだのでしょうか。

尾崎 弊社はいわゆる船を運航している海運会社ですので、船の操船支援や、船上の働き方改革、陸上のオフィスでの業務改革ですね。弊社は国際貿易のため、日本から海外、あるいは直接、海外から海外など世界中でビジネスを行っています。そうすると、国によってデジタル化の水準が違ったり、貿易手続きに必要な情報が違ったりということで、まだまだ紙でやりとりするケースが多いのです。船荷証券が最たるものですが、これは業界として電子化のプラットフォームが動いていますので、当社も参画して研究・推進を続けています。他にも多数の書類がありますが、船の港への入出港に際して世界中から大量に届く手書きの書類をAI OCRでデータ化し、後続の業務に活用することで、手書きの書類を人が読み解いて入力するという作業を軽くすることに取り組んでいます。

――DX推進のために組織変更などは行いましたか。

尾崎 冒頭にお話しした組織変更以外では、「K-Smart」や「K-Assist」というプロジェクトを立ち上げ先進技術・DXの活用に挑戦しています。「K-Smart」は、従来から取り組んでいる船上の働き方改革の加速に向け、船のデジタル化を推進します。乗組員は海上で自然相手に大変な苦労をして働いていますので、デジタルの力を使って働き方を改善していくことが、当社が最も重視する安全につながると考えています。例えば、船内はとても広いので、船内の通信設備を強化することによって乗組員同士のやりとりをタイムリーかつ安易にすることで、必要な情報がすぐに共有でき、リスクへの迅速な対応が可能になります。

 「K-Assist」は当社が長年に渡り培ってきた安全運航に関する知見と、最先端の技術を融合して、乗組員への高度化支援と負担軽減によるさらなる安全性向上を目指しています。例えば、高度なAI技術を活用した見張り・操船支援システムや機関(エンジン)プラント運転支援システムの開発などです。

五十嵐 弊社のビジネスは、貨物を船で運んでそれに対する運賃を頂くというものなので、積み高の最大化も課題の一つです。現在はヒトの職人技に頼っているところを、AIや数理最適化といったテクノロジーを用いてより多く積む、あるいはヒトの負担を軽くするというようなところにも積極的に取り組んでいます。

尾崎 特に「K-Smart」は船や船上で働く人に関するプロジェクトですので、船員を中心に陸上の社員もメンバーとなり、ITやテクノロジー系のサポートなどさまざまなバックグラウンドや知見を持つメンバーでチームを組んでいます。

 このように、個別の案件に関してはプロジェクトチームを組んで行いつつ、中期経営計画に沿ったITやDXの全社的な戦略は、社長を委員長としマネジメントをメンバーとするAI・デジタライゼーション推進委員会で議論されます。プロジェクトチームは部門横断の横の軸、そして、AI・デジタライゼーション推進委員会は縦の軸となり、われわれのDX推進チームが土台となり社内のDXを推進しています。