トラックドライバーの不足や物流コストの上昇を放置すれば2020年代後半には「物流クライシス(危機)」に陥る可能性が高まっている。そうした中、究極の物流効率化を目指した官民一体の動きが出てきた。名付けて「フィジカルインターネット」構想だ。実現には物流事業者の取り組みとともにメーカーや小売り事業者など荷主側の意識変革が鍵を握る。「物流はコストセンターとしか見なされてない」(経済産業省)状況から、各企業による戦略的な物流体制の確立が求められる。
世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症は、グローバルサプライチェーンを寸断させ、物資の供給に支障を来すという事態を引き起こした。さらに2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事行動は、燃料価格の高騰や物流ルートの変更など混乱を招いた。これらの危機は経済社会を支えるインフラとしての物流の重要性を再認識させる契機となった。
もっとも、日本における物流の危機は、構造的な問題としてコロナ禍前から顕在化していた。道路貨物運送サービス価格は1980年代後半のバブル経済による需要の急増で急騰したが、1990年代前半以降、バブル崩壊もあって緩やかに低下し続けてきた。しかし、2014年あたりから再び急騰し、1990年代初頭の水準に到達、その後も高騰し続けている。
とりわけ宅配便配送のサービス価格は著しい急騰を見せており、2017年には宅配事業者の配送に関わる総量規制や運賃値上げなど一連の動きが「宅配クライシス」として社会的に大きく取り上げられた。
物流コストインフレの背景には、①インターネット通販などEC市場の成長、②多品種小ロット輸送の増加、③トラックドライバーの不足、④気候変動対策に伴うコスト上昇圧力といった要因がある。物流コストインフレが構造的に続いた場合には、産業競争力の在り方にも大きな影響を及ぼすと考えられる。