ファミリーマート店内のデジタルサイネージ

 店舗のメディア化――。以前から小売業が目指す方向として議論されてきた課題だ。オンライン販売が伸び、リアル店舗の存在意義が問われる中、有力企業の取り組みが加速している。店舗でしか得られない「体験価値」を提供するとともに、広告収入を新たな収益源としたいからだ。

日本ではファミリーマート、USMHが取り組みを本格展開

「ファミリーマートが自社のオウンドメディアを持つということ。メディアを通じて、これまでとは全く違う新しい仕掛けを可能にしていく」。ファミリーマートの細見研介社長は伊藤忠商事と組みデジタルサイネージ(電子看板)を活用したメディア事業の新会社を設立する狙いをこう語る。

 新会社は資本金9億9000万円で、ファミマが70%、伊藤忠が30%を出資する。伊藤忠、ファミマ、NTTドコモ、サイバーエージェントの4社が共同で出資するデジタル広告会社データ・ワンが広告を受注、新会社に出稿する。レジ後ろ、上方に大画面のデジタルサイネージを新たに設置。レジに並ぶお客から見えやすい場所で、地域情報をクイズ形式で発信したり、特殊詐欺の防止を呼び掛けたりする内容を流す。食品メーカーなどの新商品の告知にも活用する。

 これは新会社側が大型モニターを設置して広告収入を得る仕組み。加盟店には決まった額の利用料を支払う。大型モニターは2022年春までに約3000店に導入。将来的にはスーパーマーケットなどの小売業者向けに、広告展開の支援業務にも乗り出す方針だ。

 コンビニエンスストア業界2位のファミマは国内に約1万6000店を展開、1日1500万人が来店する。昨年9月から首都圏と沖縄の計約100店舗で実験を重ね、収益が見込めると判断した。モニターで紹介した飲料の販売が最大7割増えた例があったという。メディア事業は、国内で飽和状態になりつつあるコンビニ業界で、リアル店舗の価値を高め、加盟店の新たな収益源とする狙いもある。ファミマはセブン-イレブン・ジャパンやローソンと比べて「都市部での集客が多い」(細見社長)。メディアとしての優位性があると期待する。

 ネット通販が拡大する中、店舗のメディア化は新たな小売りの潮流だ。ファミマと組む伊藤忠商事第8カンパニープレジデントの加藤修一執行役員は「店舗そのものをメディア化する。テレビ、ネットに続く第3のメディアを目指す」と話す。

 スーパーマーケット大手のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)は、AI(人工知能)カメラで動画の視聴人数や視聴時間、性別、年齢層を計測し、効果的なデジタルサイネージの活用方法を分析するシステム「イグニカサイネージサービス」を独自開発し、新たな販売促進に乗り出している。

 サイネージはクラウド上で管理するため、売り場や時間帯、店舗ごとに流す映像を随時変更できる。まずは商品情報や料理レシピ動画、生活情報などを配信する。AIカメラから得られる視聴データと販売データを合わせて分析することで効果を検証。メーカーなど他企業の広告配信にも対応する方針だ。

 3月から傘下のカスミの3店舗で約40インチのディスプレー10台を設置して実証実験を実施した。紹介した商品の売り上げ増などの効果が確認できたため、本格展開に踏み切る。