※本コンテンツは、2021年6月29日に開催されたJBpress主催「第4回 リテールDXフォーラム」の特別講演Ⅱ「真のリテールDX ─今こそ、MTP(野心的な変革目標)を描く─」の内容を採録したものです。

全てはMTP、野心的な変革目標から始まる

 私は三菱商事でキャリアをスタートさせ、グループ会社のローソンに出向しました。その後、外資系戦略コンサルファームを挟み、ファミリーマートとサークルKサンクスが統合するタイミングで変革の責任者としてファミリーマートに入り、2019年ファミペイの立ち上げを主導した後、DXアドバイザーとして独立しました。

 今回は、「MTP」「デジタル視察」「大胆なデジタル投資」の3つをテーマに、リテールDXの知見をお伝えします。

 最近、流行の概念で「パーパス」があります。シリコンバレーでいわれているのは、ただのパーパスではありません。これこそ今日のテーマである「MTP(Massive Transformative Purpose)」であり、飛躍的に成長する会社に欠かせないものです。

 MTPを訳すと、「世界に途方もない変化をもたらす目標」になり、簡単にいうと「野心的な変革目標」です。この MTP をしっかりと抱くことがとても大事です。

 例えば、テスラを電気自動車メーカーの会社と認識している人も多いかと思いますが、実は違います。「世界の再生可能エネルギーへの移行を加速させる」、これがテスラのMTPです。電気自動車はあくまで手段の一つで、他にもさまざまな再生可能エネルギーに関わるビジネスを行っています。

 話を小売りに戻します。アメリカと日本の卸売り・小売りの生産性を比較すると、日本はアメリカの3分の1程度と非効率です。この値は、ドイツやイギリスと比べても日本が低い位置にいます。

 言い換えれば、欧米に追い付くだけでも生産性向上が可能なわけです。そのために今、、絶対に実現しなければならないのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

人口減、高齢化、デジタルの浸透を見据え、何をするのか

 私の好きな言葉に、ビル・ゲイツの「私たちはいつも、今後2年で起こる変化を過大評価し、今後10年で起こる変化を過小評価してしまう」があります。10年間で物事がどれくらい大きく変わるかということを強調した言葉です。

 2030年、日本の人口は2020年から比べて600万人減ります。600万人は千葉県の人口とほぼ同じ数です。高齢化率は上がります。デジタル化は想像もつかないぐらい生活に入り込んでいることでしょう。

 このような変化を見据えて、世界の小売りプレーヤーは今、何に取り組んでいるのか。真っ先に注力されているのが「モバイルファースト」です。お店の入り口は店舗玄関ではなく、スマートフォンこそが全ての買い物の玄関と位置付けて、商品探し・決済・受け渡しのお買い物体験をどのように劇的に変えるかというグランドデザインを持っています。

 サイネージ一つを取っても、このようなグランドデザインから生まれたサイネージは迫力が違います。ウォルグリーンという世界最大のドラッグストアチェーンは、冷蔵庫のガラスの扉を一面全部サイネージにしました。後ろにカメラが付いていて、お客さまの表情などを分析してベストのコンテンツを表示させています。