※本コンテンツは、2021年6月30日に開催されたJBpress主催「第2回 Marketing & Sales Innovation Forum」の特別講演Ⅳ「ワークマンのMarketingとSalesの驚きの新手法~アウトドアウエアの4000億円空白市場を切り拓いた秘密~」の内容を採録したものです。

 スポーツ・アウトドアブランドが強いと思われていたマーケットで、「高機能」と「普及価格」で4000億円のアウトドアウエアの空白市場を切り開いたワークマン。新業態「ワークマンプラス」と「#ワークマン女子」が大躍進を遂げている。ここでは、アンバサダーマーケティング、過酷ファッションショー、イベント型店舗など他社にないワークマンの革新的なマーケティングとセールスの手法を紹介する。

目標は「客層拡大」だけ。それで100年の優位を築く

 ワークマンは個人向けの作業服という2000億円ほどのブルーオーシャンの市場にいました。しかし、シェアの半分近くを取ると成長が打ち止めになるという危機感があり、第2のブルーオーシャン市場を求めて動き始めました。それが8年前です。

 目標は1つ、客層拡大。これを10年、20年かけて達成し、100年の競争優位を築くことに取り組んでいます。

 その達成の手段の1つがポジショニング。つまり、競争しないで勝てる市場を選ぶこと。それを「本気度」と「しない経営」で実現してきたのですが、これらは後述します。

 もう1つの達成手段が「データ経営」で変化に強い組織にすること。不確実な時代であっても、情報は必ず現場にあります。100坪の店に1万点の製品がある中で、どれを重点的に売るか。現場でデータを見ながら考え、実験して本部に上げる。それを本部はどう標準化するか判断してきました。

変革のために企業文化の70%を変えた

 企業を変えるには、マーケティング、セールスだけを変化させればいいわけではありません。企業全体の価値観や文化を変えることが必要です。下の図に、ワークマンが変えたことと変えなかった(強化した)ことは何かをまとめました。

 変えた企業文化の中の1つ、「強みの拡張」については、具体的にはオペレーショナルエクセレンス(運営力)に、プロダクトイノベーションを追加しました。標準化やローコスト運営、フランチャイズ経営という当社の強みに、差別化を強く図ることができるPB製品をつくるということを加えたわけです。

「本気度」が伝わる施策として一番良かったのは報酬の先払いでした。2014年から5年間で100万円のベースアップをしました。定期昇給と合わせて毎年5.5%給与が上がると社員が喜び、会社のために自走してくれました。

 また、幹部の任用条件は改革マインドとデータ活用にフォーカス。働き方改革では、決算発表日を延ばすことで経理部門の残業をなくしました。これも「しない経営」の取り組みの1つです。

 その一方で、強化した企業文化は「固定化」です。顧客を固定して、値札を見ないで買ってもらえる信頼関係をつくる。供給先も変えず、加盟店とも長期的な良い関係を築く。「しない経営」で余計なことをしないというのも強化した企業文化です。