非接触ニーズに対応した「レジゴー」。スマホ端末でお客自身が商品をスキャン、専用レジで会計を済ませる仕組み
「2025年には1兆円を超えるデジタル売上高を計画しており、『オンラインデリバリー=イオン』というイメージを作りたい」(吉田昭夫社長)
ネット通販との競争激化や新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化が進む。リアルとネットをシームレスにつなぐオムニチャネルな購買体験の必要性が一段と高まる中、イオンはデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速する。
2021年度を初年度とする新たに策定した中期経営計画。成長戦略として①デジタルシフトの加速と進化、②サプライチェーン発想での独自価値の創造、③新たな時代に対応したヘルス&ウエルネスの進化、④イオン生活圏の創造、⑤アジアシフトの更なる加速――の5つを掲げた。数値目標としては、営業収益で2020年2月期比27.8%増の11兆円、営業利益で同76.3%増の3800億円を目指す。
デジタル売上高は20年2月期の約14.3倍に
最大の課題がDXへの対応だ。電子商取引(EC)やネットスーパーなどの「デジタル事業」の売り上げは、2020年2月期比約14.3倍となる1兆円に設定した。店舗とネットを融合させる「オムニチャネル」を推進し、「オンラインデリバリー=イオンというイメージを作っていく」(吉田社長)。セルフレジの導入やデジタル技術を活用した店舗運営の効率化を進めるほか、英ネットスーパー大手のオカドと組んで自動倉庫から食品などを自宅に直送する事業を始める。
新型コロナウイルス感染拡大で、消費者の購買心理・行動が大きく変化している中、デジタルシフトの推進で基盤になるのが、リアル(店舗)を持つ強みの発揮。「(イオングループの)会員規模を活用しながら、新しい顧客をとっていくことが可能」(吉田社長)とみる。また、ウォルマートなどに比べデジタル化の遅れを認めつつ、「後発なりに成功事例を移植」(同)し、既存の顧客ベースに乗せることでプラスの効果が期待する。
年間4000億~4500億円を計画する設備投資では、「デジタル・物流」への投資を全体の35%と、前中期経営計画期間の平均より19ポイント引き上げる一方、国内店舗への投資割合は71%から40%に低下させる。
23年には次世代型ネットスーパーの事業を開始
成長株がネットスーパー事業だ。コロナ前から強化するべく準備を進めていたこともあり、コロナによる需要増で売り上げが急拡大している。イオンリテールの対応店舗は前期末で200店まで増え、空白エリアはほぼ埋まった。1店当たりの出荷能力を強化するべく、店舗の作業場拡張、配送車の増便とともに、お客が店舗でも受け取れるよう、店舗内には受け取りカウンター、外にはロッカー、車に乗ったままでも商品を受け取れるドライブスルーの3つの施策を展開。結果、前第4四半期の売り上げは前期比35%増となった。
今期は拠点数をさらに30店舗積み上げ、1店舗当たりのキャパをさらに引き上げていく考え。中長期的にはオカド社との提携による、次世代型ネットスーパーの事業に乗り出すが、後者については既にこの4月、千葉市でフルフィルメントセンターの建設を開始、23年の事業開始に向けて準備を進めている。吉田社長は、「25年の時点では利益インパクトとしては小さく見積もっているが、将来性のある領域」と自信を示す。
スマホで商品スキャンができる「レジゴー」を拡大中
店舗DXで最優先に取り組むのがレジ周りだ。スマホ端末でお客自身が商品をスキャンし、専用レジで会計を済ませる「レジゴー」は、現在31店舗に導入済み。これを今期中に100店舗まで拡大する。合わせて、現在はお客に専用のスマホ端末を貸し出しているが、4月からは新たにアプリもスタートさせた。これにより、お客は自身のスマホで商品をスキャンすることが可能になる。
「レジゴー」は決済でも接触を避けられる
また従業員のオペレーション面でもデジタルを活用。昨年開業したイオンスタイル有明ガーデンに導入された人流分析AIは、今期50店舗に導入する計画で、店舗の売り上げアップやロス率改善が期待される。
これに合わせて、今期の組織改編ではエリアカンパニー本部にストアオペレーション部を設け、後方業務のデジタル化を推進。本社の各商品本部にはデジタル活用のベースとなる数値管理を適切に行うべくデジタルチームを新設するなど、デジタルシフトのための組織体制の整備も進めている。
スマートストアに導入された「AIカメラ」と「AIカカク」の狙い
戦略店舗が6月にオープンした総合スーパー「イオンスタイル川口」(埼玉県川口市)だ。「DXを駆使した初の本格スマートストア」を標榜しており、その核が「AIカメラ」と「AIカカク」の2つ。
約150台のカメラで人流を把握
AIカメラは約150台を設置。滞在人数を把握し、来店客がどの商品に頻繁に手を伸ばしたかなど商品棚の情報も自動で収集し「ヒートマップ」で可視化する。データを分析すれば、商品棚のレイアウトや品揃え自体の改善につなげることができる。専用の映像解析マシンも導入して逐次検証できるような体制を構築。接客にも活用する。
カメラで人流を把握し、接客などに活用する
消費者の購買心理をくすぐるには割引など値付けの妙も重要だが、AIカカクは商品の販売実績や来店客数などのデータを人工知能(AI)が学習し、商品の適切な割引率などを割り出して従業員に指示するもの。
特に威力を発揮しているのが惣菜売り場で、AIが店舗ごとの販売実績や天候などを学習し、合理的な価格を分析・提示する。その時の顧客が手を伸ばしやすい価格に設定するため、売価変更率・廃棄率ともに減少する効果が見込めるという。
従業員の作業は、売場に残った商品数を入力するだけ。売り場の責任者の「経験とカン」に頼っていた時代と比べ、値引きの精度が上がるほか、食品の廃棄ロス削減につなげることも期待される。
イオンリテールの山本実執行役員は「店舗で膨大なデータを収集・分析できるようになれば、マーケティングの在り方は大きく変わる」と話す。AIカメラは今年度中に約80店に広げ、約140店で導入しているAIは夏までに約350店に広げる。
確実な目標達成のために中経の期間を5年に
2020年度を最終年度した前回の中期経営計画では、リージョナル、デジタル、アジア、投資の4つのシフトを推進し、20年度に営業収益10兆円、営業利益3400億円を目指した。だが、後半、コロナの影響もあり営業収益は約1兆4000億円の未達、営業利益は目標の半分以下という厳しい結果に終わった。
その中でも、6エリアで総合スーパー(GMS)・スーパーマーケット(SM)の再編を完了。さらに英国オカド社、米国ボックスド社など最先端のノウハウ、テクノロジーを保有する企業と連携すると同時に、レジゴー(店内スマホによるセルフ精算)やセルフレジ、デジタルサイネージの導入など、店舗のDXを推進した。ネットスーパー対応店舗やピックアップ拠点の早期拡大など、オンラインでの顧客基盤の強化も図った。
これを踏まえ、今回の中期経営計画は確実に目標を達成するため、期間を従来の3年から5年に変更した。
顧客管理データの一元化を推進、新たな収益源創出に生かす
経済産業省によれば、DXのステップは3段階ある。第1段階が「デジタイゼイーション」。業務に重要な情報を数値化にして、データとして蓄積する作業だ。第2段階が「デジタライゼーション」だ。個別の業務プロセスを、データ活用によって改善させる。第3段階は「デジタルトランスフォーメーション」。データを活用した、全社的な取り組みとなる。
イオンではこのDXの取り組みで、各社でばらばらだった顧客管理データの一元化(共通デジタル基盤の整備)を進め、利益率の改善と顧客データを活用した広告収入などの新たな収益源の創出などを狙う。実現に向けて昨年10月には新会社「イオンスマートテクノロジー」を立ち上げた。基盤整備は、地域貢献や環境への配慮などサステナビリティに関する取り組みも含め、イオンと生活者とのエンゲージメントを高める「イオン生活圏」の構築を目指していく。






