※本コンテンツは、2021年6月29日に開催されたJBpress主催「第4回 リテールDXフォーラム」の特別講演Ⅲ「『売りすぎず』躍進した移動スーパー・とくし丸 AIの対極にあるビジネスモデルから見たデジタル化の余地とは?」の内容を採録したものです。

軽トラックで食材を販売する「とくし丸」に感じた魅力

 オイシックス・ラ・大地は「これからの食卓、これからの畑。」をテーマに活動しています。母体であるオイシックスは、2000年の創業以来、ECサイトを通じて有機野菜など体に良いものを提供してきました。より多くの人により良い食生活を楽しむことを届けるには、ECサイトを中心としたオイシックスのサービスでは、担い切れない部分がありました。

 その“より多くの人”のうちの1つが「シニア」です。シニアマーケットに対する議論を繰り返し、2016年に移動スーパーマーケットの「とくし丸」をグループ化しました。

 私はオイシックスの立ち上げ期から20年間にわたって事業開発に携わり、現在は株式会社とくし丸の代表取締役社長を務めています。今回は、とくし丸のDX(デジタルトランスフォーメーション)についてお伝えします。

 下の図の左下、「国内×宅配」がわれわれの事業ドメインの中心です。いわゆる「サブスク」と呼ばれているサービスで、このノウハウは海外でも展開しています。この中で、オイシックスはどちらかというと若い方中心、とくし丸は70~80代の方向けのサービスという位置付けです。

 2014年ごろ、都心で買い物難民の高齢者に支持を受けているトラック販売があるというニュースを見て、「こんなアナログな方法で商売が成り立つのか」と衝撃を受けました。それが、とくし丸でした。

 とくし丸のお客さまは本当にニコニコしながら買い物をしています。高齢者にとって、食べることは重要な楽しみの一つ。家で多くの時間を過ごす人にとって、自分の好きな物を買うという行為は最大のエンタメだということを感じました。

 オイシックスは定期会員を抱え、購入頻度の高さをデジタルの力により最適化するビジネスのアプローチをとっています。一方、とくし丸は、週2回訪問するお客さまを抱え、「ドライバー」というアナログな「人間力」によって最適化していくアプローチです。手法は違いますが、つくりたい世界観やベネフィットは一緒です。