左が常務執行役員 チーフインフォメーションオフィサー兼チーフデジタルオフィサーの木村隆助氏、右がDX共創ユニット ユニット長の慶山順一氏

DXに取り組んだきっかけはサイロ化の回避

 創業以来、130年以上にわたり海上輸送を通じて、世界の産業の発展や人々の暮らしを支えてきた商船三井。「変化する社会のニーズに技術とサービスの進化で挑む」というビジョンのもと、近年はDXへの取り組みも積極的に行っており、2022年には経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DX銘柄」に選ばれた。

 2020年4月にチーフデジタルオフィサーを置き、2022年4月に「DX共創ユニット」を設立し、取り組みを加速させている、常務執行役員 チーフインフォメーションオフィサー兼チーフデジタルオフィサーの木村隆助氏と、DX共創ユニット ユニット長の慶山順一氏に聞いた。

――商船三井がDXに取り組むようになったきっかけを教えてください。

木村 当社の主力事業である海上輸送業においては、大きな船1隻に対してお客さま1社というケースが多く、その場合、いかにお客さまから信頼を得、密接に結び付いているかが真価となります。自己完結的な“営業担当者対お客さま”というハイタッチな関係が商売上、重要。そうすると、自分の所属する部門以外と連携する必要がそれほどなく、サイロ化に陥りやすくなります。ほかの部門と同じ業務のやり方やノウハウを比較したり共通化しながら、業務を効率的に改善していく必要性を感じていました。

 また、当社のお客さまへのサービスには、スケジュールを守って安全に荷物を届けるという運航管理があります。お客さまとの信頼関係と安全運航管理という2つが、事業の真価が問われる大きな軸になっているわけです。

 一方の課題は、人員不足です。お客さまから求められる安全レベルが高まるのに比例して業務量も増えます。また、収支の予実管理なども担当者による一極集中で行われていたので、時間も足りない。であるなら、属人的に業務を行うのではなく、例えば、定型化できる業務は定型化してアウトソースするとか、ロボットやAIを活用するとか、そうした取り組みを加速させていくべきだという機運が社内でも高まっていました。

 業務をデジタル化することで、社員が既存業務に埋没することなく、新たなお客さまとの関係強化や新規ビジネスの獲得に時間を割くことができます。そうした課題感もあり、2年ほど前からDX推進への取り組みを本格化させました。

 今年の4月にはDXを推進する部門としてDX共創ユニットを設立し、IT導入支援を専門領域とする慶山がユニット長に就任しました。また、情報システム業務の責任部門である商船三井システムズから、データ技術者やプロセスエンジニアなども技術支援役としてメンバーに入ってもらい、現在は40人規模で当社のDXを推進しています。

――DX共創ユニットが設立されてから数カ月経過したところですね。

慶山 そうです。ただ、組織化されてからは数カ月ですが、デジタルソリューション活用の取り組みは2年以上前から行ってきました。ビジネスそのものの効率化と安全運航の2つを軸に取り組んできましたが、安全運航という面では、船から収集したさまざまなデータを活用する基盤が出来上がりつつあります。ですので、現在は業務の効率化とデータ活用の本格化に向けてさらに注力しているところです。

――DX推進のステップというのは設定されているのでしょうか。

木村 大きく3つのステップを設定しています。最初のステップとして、昨年1年間、データドリブン思考を定着化させるためのプロジェクトを行いました。例えば、管理職の社員全員にBIツールを提供し、日常業務の問題点や、自分たちの意思決定のためにどのようなデータが必要かといった課題を挙げてもらい、それをもとにDX推進プロジェクトチームが基盤を作り、ダッシュボードを出すといったことを行いました。それにより、“データを使ってこんなことができる”という理解が深まると同時に課題が明らかになったので、まずは業務改善のDXからスタートすることにしました。

 また、今年の4月には業務の基幹システムを変更しました。これまでは、商船三井システムズが手組みでシステムを開発してきましたが、それをFit to Standardで、システムに仕事を合わせるというやり方に変えました。

 次に、プロセスの合理化です。例えば、現在の組織を機能別に横割りにして、RPAやAIを使って仕事をするというような試みをステップ2としました。

 ステップ3は、横割りにした組織の機能ごとにレイヤーを作り、部門を超えてその機能のセンターを作る。こうした構造改革をすることで、マンパワーが新たな価値層に向かうことができると考えています。社内だけでなく、お客さまに新しい付加価値を提供できるところまで見据え、これら3つのステップを進めていきたいと考えています。