物流業界はさまざまな問題を抱えている。その中の特に重要な3つの課題について、論客として知られるコンサルティング会社、ローランド・ベルガーの小野塚征志パートナーにやさしく解説してもらうことにした。第1回は「物流業界の2024年問題」だ。

 働き方改革関連法によって2024年4月1日からトラック運転手の時間外労働時間の上限が年間960時間に制限される。これによって物流業界の現場は混乱し、物流会社の経営環境は悪化するとみられている。今年1月に野村総合研究所は「このままでは2030年には35%の荷物が運べなくなる可能性がある」とする試算を発表した。この問題の本質と対策を小野塚氏に語ってもらった。

「ECの物量が増えているから」は大間違い

小野塚 征志/ローランド・ベルガー パートナー

1976年東京都出身。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、構造改革、リスクマネジメントなどをはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。近著に、『ロジスティクス4.0』(日本経済新聞出版社)、『サプライウェブ』(日経BP)、『DXビジネスモデル』(インプレス)など。

 現在「物流クライシス(危機)」が起きているといわれています。中には「EC(ネット通販)の物量が増えているから」と言う人がいますが、それは大間違いです。そもそもECの物量が日本の物流量に占める割合なんて5%以下です。ほとんどがBtoB(企業間取引)なのですが、この物量は右肩下がりで減っています。ただそれ以上にトラック運転手が減っているので需給ギャップが生じているのです。すなわち人的リソース(資源)の不足による供給減なのです。2024年問題はそれをさらに悪化させるということです。

 日銀がまとめた企業向けサービス価格指数によると、2000年を100とすると、2022年の価格は「企業向けサービス」(BtoB)全体では98で、2000年と2022年のサービス価格はほぼ同じです。でも宅配便は145、トラック輸送は114と企業の物流コストは大きく上がっています。経済産業省は「物流コストインフレ」という言い方をよくしますが、まさに人手不足によるインフレが起きているのです。2024年問題の発生でさらに値上げされることも予想されます。

 2024年問題への対応について経済産業省、国土交通省、農林水産省が立ち上げた有識者会議「持続可能な物流の実現に向けた検討会」が昨年9月に発足しました。私は委員なのですが、その検討会でNX総合研究所は2024年までに対策を講じなければ14%、4億トンの物が運べなくなると試算しました。さらに放置して2030年になると34%も輸送能力が足りなくなるとしています。だから2024年以降も続くトラック運転手の不足を想定した対策が必要です。

 2024年時点で不足する輸送能力を業界別に見ると、一番危機的なのは農産・水産品出荷団体で輸送能力は32%不足すると試算されています。野菜や魚が3割ほど届かなくなるということです。発地別で見ると、九州と中国の輸送能力が2割程度不足します。関東圏への長距離輸送の多さが原因と推察されます。現在の運行体制を維持しようとすると、2024年に彼らは関東まで運べないわけです。

 だから2024年問題が生活者に与える一番のインパクトは宅配物が届かなくなるのではなく、関東のスーパーに九州の野菜が並ばなくなるということなのです。これが物流業界における2024年問題なのです。