「物流2024年問題」とは、トラック運転手の残業規制が強化されることによって安定的な輸送が困難になると懸念されることだ──。こうした説明だけを聞くと、物流2024年問題は運送会社を中心とした問題であり、物流センターにはあまり関わりがないように思える。だがアビームコンサルティングでサプライチェーン戦略領域を統括する原田健志氏は、「物流センターの改革は、物流2024年問題の解決に大きく寄与することができる」と指摘する。後編では原田氏にその意味することころを語ってもらった。

シリーズ「アビームコンサルティング原田健志氏が語る『物流2024年問題』の課題と解決策」
【前編】アプローチは4つ、こうすれば「物流2024年問題」は解決できる
【後編】物流センターの改革が「物流2024年問題」解決に大きく寄与する理由(本稿)

物流センターも人手不足に悩んでいる

原田 健志/アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル エンタープライズトランスフォーメーションビジネスユニット デジタルプロセス&イノベーショングループ SCMセクター

北海道大学大学院工学研究科修了。外資系コンサルティングファームを経て現職。アビームコンサルティングにおけるサプライチェーン戦略領域を統括。自動車、産業機器、医療機器、化学、製薬、食品、消費財の多くの業界企業におけるサプライチェーン・エンジニアリングチェーン改革に従事。著書に『深化するSCM』(2015、インプレス)がある。

 物流の増大によるトラック運転手の不足が問題視されていますが、実は物流センターにおける労働力の確保も今大きな問題になっています。

 近年は物流業者や不動産業者が各地で物流センターを新設していることもあり、働き手の奪い合いが起きています。実際、大手の小売企業や外資が大型の物流センターを立ち上げ、時給2000円を超える高い時間単価でパート労働者を集めたことで、周囲の既存の物流センターが一気に人手不足になるという現象が起きています。

 先日、企業の物流を受託する大手3PL(サードパーティロジスティクス)の物流センター長にヒアリングしたところ「働き手はどうにか集まるが、昔と比べると人材の質が落ちており、以前と同じ水準の仕事ができなくなっている。人材育成やフォローのための工数、日々のマネジメントなどに配慮する負荷が年々高まっている」と話していました。

 そうであれば、倉庫での作業を機械化、自動化すればいいと思うかもしれませんが、実際には機械やロボットは単純作業しかできません。運ぶものの形状や重さ、重心などのバランスに加え、物量や作業のペースがある程度定型化・標準化されなければ、部分的な活用しかできず、結局、人間がフォローせざるを得なくなります。言い換えれば、物流業者側が配送先に対して大きな力関係を持っている特殊な状況下でしか全自動に近い機械化はできないのです。

 現行の物流センターは増大する物流を少ない人手で担い、現場の職人芸や人海戦術で乗り切っているのが実情です。

アビームコンサルティングの原田健志氏(撮影:酒井俊春)

物流センターの「在るべき姿」を少し広げて考える

 そうした状態を脱して物流センターが目指すべきなのは、「物量が増加し、運ぶものが日々変わったり、日によって確保できる労働力が変わったりするという状況下でも、データを基に柔軟な運営・管理の体制を築いていく」ことです。つまり、データマネジメントの体制を確立することです。

 それができれば物流企業は、①柔軟性のあるロジスティックの企画と設計、②データ利活用に基づく運営上の意思決定、③倉庫全体の生産性を高めるオペレーションコントロールが実現できるようになります。