経済産業省は、システムの老朽化やブラックボックス化でITの陳腐化が進み、日本企業が国際競争力を失っていく状態を「2025年の崖」として問題提起してきた。国内の物流を支えるSGホールディングスグループも、かつてはそうした課題に直面してきたが、レガシーシステムの撤廃や開発・保守/運用の内製化を進め、現在はDX銘柄に2021年、2022年と2年連続で選定されるなど、IT・デジタル技術を活用した物流ソリューション企業に生まれ変わっている。本稿では、同社のDX戦略の歩みと今後の展望について紹介する。

※本コンテンツは、2022年4月26日に開催されたJBpres/JDIR主催「第1回物流イノベーションフォーラム」の特別講演Ⅰ「SGホールディングスグループにおけるDX戦略」の内容を採録したものです。

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システム乱立によるITコストの高騰を内製化で解決し、大幅に収益を改善

 SGホールディングスグループは、宅配事業をはじめとした運送事業を手掛ける佐川急便株式会社を中核とする、総合物流企業グループだ。SGホールディングス株式会社がDX・IT戦略を策定し、佐川急便などの事業会社が具体的なDX企画を立案、グループ内のITリソースを集約したSGシステム株式会社が実行するという役割をそれぞれに担っている。社員が相互にローテーションしながらガバナンスを強化し、戦略から企画、そして実行までをグループ内で連携して推進できるのが大きな特徴だ。

 SGホールディングスグループのDX・IT戦略は3つのフェーズに分かれる。1985~2004年には、荷物の場所をリアルタイムに情報提供する「貨物追跡」や、EC商品の代引きサービス「eコレクト」といったさまざまなサービスを立ち上げ、システム化によるサービスレベルの強化に重点を置いた。

 しかし、その結果として、さまざまなアーキテクチャのシステムが乱立、ITコストの高騰が新たな課題となる。その解決に向け、2005年から7年間をかけて、メインフレームで稼働していた基幹システムを、オープン化された共通プラットフォームへダウンサイジングしている。また、数百ある周辺システムについても共通プラットフォームへ乗せ換え、さらに各システムの開発・保守/運用を、ベンダー依存から内製へと移行している。SGホールディングス株式会社で執行役員DX戦略担当を務める谷口友彦氏は、その頃を振り返って語る。

「当時から佐川急便は年間約数億個の荷物の取り扱いがあり、基幹システムでは膨大な処理が必要でした。ここまで大規模の処理はメインフレームでしかできないと、ベンダーからは言われていました。しかし、オープン系のサーバーを複数台並べた並列分散処理のシステムに移行することができ、並行して若手社員中心にJAVAを学ばせることで、開発・保守/運用の内製化を実現することができました。こうして最終的にメインフレームを全廃し、ベンダー依存の体質から脱却した結果、年間ITコストを35%以上削減することに成功したのです」(谷口氏)

 また、プラットフォームをワンストップ化したことで、データの一元管理も可能となった。そこで配送エリアや便種、積載率やセールスドライバーの人件費などあらゆるデータを収集・活用し、採算管理を徹底した。それが功を奏し、荷物1個あたりの単価は2013年3月期の460円から2021年3月期には644円へと上昇、営業利益も同期間で310億円から1017億円へと3倍以上に伸長した。この一連の佐川急便の取り組みは、データドリブン経営の先駆けとも呼べるだろう。