アスクル代表取締役社長 最高経営責任者(CEO)の吉岡晃氏

チーム型経営への移行で不可欠だったパーパス

 事業所向けの通販サイト「ASKUL」や個人向け生活用品サイト「LOHACO」などを運営するアスクルは2020年12月、企業の持続的成長に向け、パーパス(存在意義)とそれを実現していくためのバリューズ(価値観)、創業以来変わらぬ合言葉でもあるDNAから構成される新たな行動指針「ASKUL WAY」を策定した。

吉岡 晃/アスクル代表取締役社長CEO
1992年3月青山学院大学理工学部卒業後、同年4月西洋環境開発入社。2001年アスクル入社。医療介護施設向け通販を立ち上げ、収益化を実現。2012年取締役就任、個人向け通販「LOHACO」の立ち上げからCOO(最高執行責任者)として従事、2019年8月より現職。2023年2月、フィード取締役就任。
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座右の銘:「意志あるところに道あり」(リンカーン)
尊敬する経営者:レイ・アンダーソン(米国インターフェイス社 創業者)
変革リーダーにお薦めの書籍:『ザ・ラストマン』(川村隆著)

 2020年といえばコロナ禍が始まった年だが、この指針はコロナを契機に定義したものではない。吉岡晃社長は「アスクルという会社を、過去のカリスマ経営からチーム経営へ転換すべきと考えたことが一番大きかった」と振り返る。では、転換のきっかけとは何だったのか──。

 もともと同社は事務用品メーカー大手、プラスの一事業部として1993年に発足し、1997年に分社化、独立して今日に至っている。事業の立ち上げから関わり、その後も長年トップとして指揮してきたのは岩田彰一郎前社長だが、業務資本提携先で筆頭株主のヤフー(現Zホールディングス)と事業方針を巡って溝ができ、2019年8月の株主総会をもって社長を退任。代わって急きょ登板したのが吉岡氏だった。

 カリスマ型の経営者として牽引してきた岩田氏の退任という混乱の中、「社長就任後、社員との対話や社外取締役も入れての議論を何カ月も重ねていきました」と吉岡氏。その過程で「ASKUL WAY」の骨格を煮詰めていったわけだ。さらに吉岡氏はこう続ける。

「私自身、ずっと思っていたことがあって、創業以来掲げている【お客様のために進化する】というアスクルのDNAは不変ですが、進化して社会に何を果たしていくのかを定める必要があるのではないかと考えていたのです。それこそがパーパス(存在意義)だと。カリスマ型からチーム型の理念経営にもっていこうとするとパーパスは不可欠です。そこで、私たちのDNA(生き様)に加え、社会に対して果たす責任、どういう価値観を大事にしていくかを決めようと考えました」