物流業界の3つの課題についてローランド・ベルガーの小野塚征志パートナーに解説してもらう企画。最後のテーマは「サプライチェーンの未来」だ。
川上から川下までの供給のプロセスであるサプライチェーン。これは企業単独ではなく、調達先や納品先の事業者と連携して形成されている。今、この産業構造が大きく変わろうとしている。デジタル技術の進化による物づくりのマスからカスタマイズへの転換、顧客ニーズの変化などの環境がそれを加速させている。
従来型のサプライチェーンはどのように変わっていくのか。その方向性と具体的な動きについて、小野塚氏に語ってもらった。前編では「サプライチェーンの構造がどのように大きく変わるのか」についてだ。(まとめ/西岡克)
<小野塚征志氏に聞く「物流業界の課題とその解決策」>
■「2024年問題」への対応、物流業界と荷主は何をすべきか?
■小野塚征志氏が語る「物流業界はサステナビリティにどう取り組むべきか」
■小野塚征志氏が解説する「大きく変わるサプライチェーンの未来」(前編)
これまでの「固定的な取引関係」が崩れようとしている
サプライチェーンとは「調達‐生産‐保管‐輸送‐販売」という調達・生産から販売に至るまでがつながった「供給連鎖」のことです。
サプライチェーンマネジメントというのは生産・物流・営業部門が機動的に判断できる基準を導入することによって、在庫を圧縮し欠品率を低減させるなど、サプライチェーン全体で最適化を実現しようというものです。
それは取引先との連携で可能でした。例えばトヨタが通い箱を使おうと言えば、サプライヤーもディーラーもみんな同じ通い箱を使うことで、デジタルに在庫データを管理できていました。
従って、従来のサプライチェーンマネジメントは、BtoB(企業間取引)のビジネスにおいてはいつも同じ取引先ということが大前提でした。
しかし現在、サプライチェーンマネジメントの根底にあった、この「特定の調達先・納品先との固定的な取引関係」が崩れようとしています。例えば自動車業界では従来、モデルチェンジするまでの数年間、基本的には同じサプライヤーから調達をしていました。
しかし、電気自動車(EV)時代の取引関係は違います。EVはパーツの組み合わせで車ができてしまうので、エンジンやトランスミッションを作らなくても、モーターやバッテリー、ハンドルなどを部品メーカーから調達すれば、パソコンの組み立てのようにできてしまいます。垂直統合型のサプライチェーンは成立しなくなるのです。
ディーラーも同じです。現在はトヨタの車はトヨタのディーラーで買います。修理や車検があるからです。でも自動車メーカーがいろいろなサプライヤーからモーターやハンドルを調達するようになったら、ヤマダデンキやニトリで販売するということが一般的になるかもしれません。今までの固定的な関係性はもう成立しないのです。
D2Cの拡大で既存の流通網は力を失ってしまう
家電業界も同様です。
中国のハイアールは上海で家電のマスカスタマイゼーションを推進しています。例えば自分の部屋に合わせて冷蔵庫の大きさや色、機能を組み合わせて注文できます。パソコンの場合、EC(電子商取引)を通してビルド・トゥ・オーダー(BTO)で買う人は多いと思いますが、それと同じ世界がやってきます。となると将来的には家電量販店はショールーム化し、D2C(消費者直結)での販売が一般化するかもしれません。
アパレルでもエアークローゼットがプロのスタイリストがセレクトした洋服のレンタルをしています。リサイクル、リユースするような新しい仕組みができると、アパレルメーカーも売れ残ったものをエアークローゼットに流すような新しいサプライチェーンが出来上がるかもしれない。取引関係の自由度が高まるわけです。
医薬品も同じです。
厚生労働省は在宅医療を増やそうとしています。高齢者が家で在宅介護、在宅看護を受けると、処方薬が宅配されます。今、議論されているのは過疎地に訪問介護の人が薬を持って行くこと。サービスも物も人も一緒に運ぶような三位一体でのサプライチェーンが過疎化が進む日本においては必要かもしれません。
食品も同じです。
従来の食品流通はメーカー‐卸‐小売店という流れでした。小売店はネットスーパーを展開しています。しかしメーカーから卸、卸から小売り、小売りからネットスーパーという物流の過程を、メーカーがいきなり消費者に届ければ、積み替えプロセスを2回スキップできます。だからD2Cの方が店頭販売よりも物流・流通コストを安く抑えられる可能性があります。
するとサプライチェーンがダイレクトになります。メーカーがD2Cの機能を獲得することで、既存の流通網が存在感を失する可能性もあるのです。