三越伊勢丹グループは「最高の顧客体験」をつくり、継続的な関係性を構築してLTV(Lifetime Value)を最大化することを目指し、顧客視点でのデジタルサービス開発を進めてきた。華やかな表舞台である店頭から、舞台裏に当たる業務プロセス・システムに至るまでの「つながり」は、どのようにつくられてきたのか。具体的な事例を交えながら、三越伊勢丹ホールディングス執行役員であり、情報システム統括部長の三部智英氏が語る。

※本コンテンツは、2022年11月28日(月)に開催されたJBpress/JDIR主催「第10回リテールDXフォーラム」の特別講演2「三越伊勢丹におけるデジタルの取り組みとこれから」の内容を採録したものです。

「感動的な解決」「革新的な提案」を舞台裏で支えるデジタル改革(DX)

 三越伊勢丹グループは伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店をフラッグシップストアとして、国内外に48店舗を構える。連結売上高は2022年3月期実績で4183億円、従業員は1万7200人の規模を誇り、不動産、金融事業も手がけているが、その中ではやはり百貨店の比重が非常に高いという。また同グループのハウスカードであるエムアイカード会員は280万人、国内百貨店の取組先数は2万6000社と、大規模なステークホルダーを抱えている。

 また同グループが長期的に目指す姿には「お客さまの暮らしを豊かにする特別な百貨店を中核とした小売りグループ」があり、そのための提供価値として、顧客の困りごとに対する「感動的な解決」およびニーズへの「革新的な提案」を挙げている。そしてデジタル改革(DX)とシステム/データ基盤は、これらを実現する戦略フレームとして位置づけられる。

 三越伊勢丹ホールディングス執行役員であり情報システム統括部長を務める三部智英氏は、同グループのデジタルサービス開発の方向性を「マスから個へ」と表現する。

「一人一人のお客さまを大切にしながら、ご来店いただいて接点を持ち、継続的な関係性をつくり続けていくということです。約2年間のコロナ禍を経て、業績は回復傾向にあるものの、消費の二極化、顧客構造の変化、オンライン化の加速などにより、従来型のマーケティングは限界を迎えています」

 さらに百貨店は中心顧客の高齢化が進んでおり、新規顧客の取り込みが今後の大きな課題となっているという。

 三部氏は、店頭やオンラインの顧客接点を「華やかな表舞台」と形容する。具体的には、先行販売や限定品など話題性のあるユニークなプロモーション、バイヤーによる本物・本質・最先端にこだわった顧客ニーズの高い商品といったものだ。一方、舞台裏でこれらを支えるのが、業務のプロセスや仕組み、システムやデータだ。同グループのDXは、この表舞台と舞台裏をつなぎ、顧客との継続的な関係性をつくってLTV(Lifetime Value)の最大化を目指すものと定義されている。