百貨店はコロナ禍によって大きなダメージを受けた。大丸松坂屋百貨店はコロナ禍で10年先に訪れたであろう大きな環境変化が早まったと認識。その気付きを基に、百貨店の課題であった「時間と場所の制約」を克服するため、DX(デジタルトランスフォーメーション)強化にかじを切った。澤田太郎社長は、今後3年間で豊かな生活や心の充足に不可欠な「意味性商材」を主戦場に「人」の力をデジタルで拡張していくと中期的な戦略の方向性を語る。

※本コンテンツは2022年3月25日に開催されたJBpress主催「第7回 リテールDXフォーラム」の特別講演Ⅴ「大丸松坂屋百貨店のDXへの挑戦」の内容を採録したものです。

コロナ禍で気付いたマーケットの加速度的変化

 百貨店はコロナ禍で大きく売り上げを落としたが、澤田社長は「それだけが原因ではない。だから、コロナが明けてもすぐに以前の収益水準には戻らない。成長軌道にのせるには今までとは違う戦略が必要だ」と語る。

 外部環境は大きく変わった。①デジタル化が進み、②サステナビリティ(持続可能性)という価値観が重みを増し、③マーケットが細分化した。この3つの変化がコロナ禍で加速し、10年先の未来が今、目の前に来たと考えた。

 そこで、同社ではマーケットの変化を読み解いた。消費は「実用性消費」と「意味性消費」に2極化していくのではないかと考えた。価格のグレードで分類する2極化とは異なる概念だ。

「実用性消費」は日常生活に不可欠で、物理的要件が強く、合理性、利便性、機能性が重要視される消費。一方、「意味性消費」は心の充足に不可欠で、感情的要件が強く、作り手の哲学や志に対する共感や応援が後押しする消費だ。中間もあるだろうが、今後、コロナが安定すれば心の充足が求められていくだろうと予測した。

 商材も2タイプに分かれる。「実用性商材」は利便性や有用性を追求し、大量生産・大量消費を前提とした商材。大規模なマーケットになり、アルゴリズムや商品の網羅性が鍵になる。この商材は「経済」を動かす。EC(電子商取引)や量販店、コンビニが主戦場になっていく。

 一方、「意味性商材」は日常生活には一見、不要に見えるが、生活や人生の楽しさやわくわく感を満たすような商材だ。勢いマーケットは細分化され、当然、売り方やお客の買い方が実用性商材とは異なり、「人」の力による魅力の伝達が鍵になる。この商材は「心」を動かす。

 百貨店は過去に実用性商材も扱っていたが、異業種にシェアを奪われていった。意味性商材は百貨店が本来、得意とする領域であるので、「今後は意味性消費の商材を主戦場として戦っていきたい。実用性消費は効率化を進め、15店が立地する各エリアのマーケティングに合わせて、構成比を変えていく」と澤田社長は語る。