呉服店創業から百年以上の歴史を持つ百貨店の「三越」と「伊勢丹」を運営する株式会社三越伊勢丹が今、積極的に推し進めているのがDX戦略である。同社の強みは、長きにわたって紡いできた顧客との関係性と、圧倒的なブランド力。老舗だからこそできる、老舗だからこそやらなければいけないDXへの取り組みと、未来を見据えた挑戦について、同社MD統括部 オンラインクリエイショングループ EC運営部部長の北川竜也氏が話す。
※本コンテンツは、2021年11月26日(金)に開催されたJBpress主催「第11回 DXフォーラム」の特別講演Ⅲ「三越伊勢丹のDXの取組みとオンライン戦略」の内容を採録したものです。
コロナ環境下で見えてきた新たな方向性
日本の百貨店売上高第1位を誇る三越伊勢丹グループは、三越と伊勢丹の他にも、岩田屋や丸井今井など日本全国に12社20店舗を構え(持分法適用会社も含む)、海外にも多くの店舗を持っている。百貨店業界のトップランナーである同社だが、新型コロナウイルスによる世界的な景気悪化の波には逆らえず、2020年は約2カ月間の店舗休業。百貨店業はもちろん、クレジットカード事業や友の会事業などは軒並み大きく前年を下回る結果となってしまった。
しかし、そうした中でも大きな伸びを見せたのが、近年、力を注いでいるオンライン事業である。コロナ禍における不要不急の外出・移動の自粛要請もあり、オンラインによる商品の購入が一気に増加。同社が運営している百貨店総合EC「MIオンライン(三越伊勢丹オンラインストア)」は、予想を大きく上回り130%を超える伸びを記録した。(※1)
そして、この状況に輪をかけるように急成長を遂げたのが、同社が約3年前から新規デジタル事業として取り組んできた特化型ECサイト。化粧品に特化した「meeco(ミーコ)」や、オイシックス・ラ・大地株式会社と連携して行っている定期宅配サービス「ISETAN DOOR(イセタンドア)」など、特化型ECサイトは全体で前年比200%超えを達成した。(※2)「大変な状況ではありましたが、お客さまとの新たな接点、関係性をつくる入り口として、オンライン事業が大きな役割を果たしてくれました」と、北川氏は語る。では、実際にどのようなカテゴリーが購買層の評価を受けているのか。
「新型コロナの影響で、旅行や外食などの消費が小さくなっています。その分、買い物によって気持ちを上げたい、あるいは良い物を長く使いたいというお客さま心理が働いたのでしょう。ショッピングズエンターテインメントを体現するラグジュアリー部門は、大きな伸びを見せています。それから化粧品部門も、ベースからしっかりきれいになろうという思考が強まったのか、特に基礎化粧品に注目が集まっています。食品部門は、外に出られない分、自宅の食事を華やかにしたいということで、いつもより良い商品・惣菜等をお買い上げいただく傾向にあるようです」
これら以外にも、ランドセルやニッチなデザイナーズブランド、現代アートなど、「百貨店といえば」というような商品が伸びているとし、これまで百貨店が積み上げてきたブランド力が、苦しい現状を打破する突破口となっている。
百貨店業全体の売上は依然厳しいものがあるが、ロイヤリティの高い、いわゆる富裕層の消費は、昨年後半からほぼ元に戻っているという。
「2021年10月の段階で、前年と比べて100%を超えるところまで消費は戻ってきています。われわれはショッピングが持つエンターテインメント性や非日常性によって、お客さまの人生を豊かにするという役割を担っています。この思いをお客さまと共有できたからこそ、一定の支持を得られたのではないかと感じています」
※1:2021年3月期決算説明会資料から
※2:2022年3月期第二四半期決算説明会資料から