左が橋本尚弥 経営企画部長 兼 加盟店事業部長。右が和田裕行 加盟店事業部 部長 加盟店営業担当 兼 加盟店企画担当マネジャー
大丸松坂屋百貨店、パルコなどの事業会社を持つJ.フロント リテイリング(JFR)。この傘下で決済・金融事業を行うJFRカードは、2021年7月からGMOペイメントゲートウェイと協業、グループの商業施設周辺の店舗を中心に「カード加盟店網」の拡大を行うことになった。この取り組みはデジタル技術を使い、「地域社会との共生」を目指すものだが、それはJFRグループに何をもたらそうとしているのか。橋本尚弥 経営企画部長 兼 加盟店事業部長と和田裕行 加盟店事業部 部長 加盟店営業担当 兼 加盟店企画担当マネジャーに聞いた。
囲い込みではなく共生、地域を盛り上げる
大丸と松坂屋ホールディングスが合併して2007年9月に誕生したJFR。大丸は1717年、京都伏見に「大文字屋」として創業し、「先義後利」(中国の儒学の祖の一人、荀子の栄辱編の中にある「義を先にして利を後にする者は栄える」から引用したもの)を店是として掲げたことで知られている。
これはその後、グループの社是となって経営の基軸に据えられ、幾度となく危機を乗り越えてきた。そのJFRは現在、原点回帰し、グループの在り方を変えようとしているが、そこには百貨店という業態がサステナブルではなくなったという認識がある。
「JFRグループはサステナビリティ経営を推進し、その実現のために『7つのマテリアリティ』を設定しています。その中の1つが、地域とともに魅力的な街づくりをしていくという『地域社会との共生』です」
こう話すのはグループのクレジット金融事業を行うJFRカードの橋本氏。JFRは決済・金融事業を新たな中核事業の一つとし、JFRカードにグループを小売業の枠を超えた“マルチサービスリテーラー”として発展させる事業を期待する。
「『安心・安全な決済手段を提供する』『加盟店に対してビジネス拡大の機会を提供する』『加盟店網を拡大する』の3つを推進することで、エリアの来街者を増やし、加盟店間の相互送客を実現し、地域社会との共生を進めていきます」と橋本氏。
今、顧客の囲い込みはビジネス推進の上で重要な要素になるが、これはJFRグループの商業施設周辺の店舗に加盟してもらい、JFRの街・商圏・経済圏を作ろうということなのだろうか?
橋本氏は「大丸や松坂屋は地域で長年、商売をしてきたので、周囲の店舗とは既にコミュニケーションがあります。今回も経済圏や囲い込みという目線ではなく、そのエリアが盛り上がるための共生の取り組みと考えています。JFRの店舗だけが儲かればいいという考えではありません」と否定する。
そのため、今後は周囲の店舗とイベントを共同開催するなど一歩踏み込んだ形でのコミュニケ―ションを増やすほか、「現時点で発掘しきれていない地域の魅力があると思うのです。今までは大丸や松坂屋のことしか情報発信してきませんでしたが、例えば、名古屋でしたら『栄の周辺にこんな素敵な加盟店があるよ』ということを、お客さまにお知らせしていきます。そうすることでお客さまが地域を回遊し、街がより魅力的になっていくと思っています」と橋本氏は話す。
加盟店開拓などの営業を担う和田氏は「1件ずつ契約を増やし、ステップ・バイ・ステップで進めていきたい。ホームページやメールなどを駆使して送客支援をする取り組みを拡大していき、より地域に根付いていきます」と考えている。
重点エリアは、「大阪の心斎橋と名古屋の栄になります。商圏と店の規模の大きさ、百貨店もあってパルコもあるからです」(橋本氏)
今、名前が挙がった名古屋がそうだが、大丸札幌店がある札幌も、東京・大阪と比べると車社会で、車で行きやすい郊外の店舗で買い物をする面がある。そうした中、都市中心部にどうお客を呼び戻すかについて、橋本氏は「中心部に来ていただく頻度を上げるには加盟店を増やせるかどうかです。加盟店が増え、中心部が活性化し、魅力が高まれば、中心部で買い物をしようとするお客さまは自然と増えると考えています。名古屋や札幌は商圏が広いので、周辺の店舗だけでなく、ちょっと離れた場所の加盟店を開拓するなど、地域性や顧客属性に合わせて対応していきます」と話す。
百貨店がカバーしきれていない店舗がある
JFRカードがまず取り組むのが、キャッシュレスの環境整備。各種金融サービスを展開するGMOペイメントゲートウェイの「GMO-PG プロセシングプラットフォーム」を導入し、クレジットカード、QRコード決済、電子マネーなどの決済ソリューションを提供することにした。加盟店はどのソリューションを利用するのかを自由に選べ、各ソリューションの営業窓口も一本化が可能であるため、業務の効率が図れる。端末もバラバラに設置するのではなく、1台で全てに対応するオールインワンの端末を各加盟店に設置する。
これにより何を目指すのか。和田氏は「『どこで、誰が、どれくらい』といった利用データが蓄積していくので、百貨店も周辺店舗も顧客がどういった動きをしているのかを理解できるようになります。JFRカードの加盟店になっていただくことで、より細かく顧客の動向が分かるようになるので、その効果を感じていただけると思っています」とメリットを語る。
このように、顧客が購入する商品の傾向、価格帯や時間帯など特徴が分かれば、JFRグループも加盟店もよりピンポイントでのマーケティングやプロモーションをタイミングよく行え、売上げ向上の可能性が高まるが、データのどのようなところに注目するのか?
橋本氏は「例えば、百貨店内のレストランとその周辺の加盟レストランとでの客単価の比較です。こちらの利用があるのに、あちらでは利用がない場合、そうしたお客さまにアプローチをしていくイメージです」と、データを加盟店への送客につなげていく。
百貨店などは1カ所でさまざまなものを買えるので、その後、周囲の小さな店へは足が遠くなってしまうかもしれないが、橋本氏は「百貨店では補いきれていない分野もあります。レストランは百貨店の上階にあるだけで、全ての飲食店の形態をカバーできていませんし、美容室、施術系といった美容関係もたくさんはありません。補完関係になることで、百貨店の後に、加盟店に立ち寄ってもらうという流れはできると思っています」と考える。
社是「先義後利」の実践がCSVになる
「先義後利」を社是とするJFR。グループではこれを今の言葉に言い換えると、「お客さま第一主義」「社会への貢献」ととらえ、この社是を愚直に実践することがCSV(Creating Shared Value/事業活動を通じて社会課題の解決を実現する共通価値創造)になると考えている。
少子高齢化による市場縮小が続く中、所得の二極化により店舗・企業を支えてきた中所得者層も減少し、長期的に売り上げが低下。それを訪日外国人の売り上げでカバーしてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、それもできなくなっているのが、今の日本の百貨店だ。
そうした中、JFRは構造改革を進めつつ、抜本的なビジネスモデル転換に取り組んでおり、JFRカードによる取り組みもその一つだが、この地域活性化の取り組みにも「先義後利」が徹底。地域とともに栄えることが重視されている。
百貨店事業・パルコ事業が中心のグループのJFRのビジネスモデルが、デベロッパー事業により不動産業の、クレジット金融事業により金融業のウエートを増やしていっても、「先義後利」の大原則は変わらない。
それはこれがJFRが社会に認められてきた理由であり、商号が「大丸」「松坂屋」からJ.フロント リテイリングに変わっても長い歴史の中で守り続けてきた企業の存在意義だからだ。






