「ブラジル」と聞くと、多くの読者はコーヒー、サッカー、サンバといったキーワードを真っ先に思い浮かべるのではないだろうか。ところが、現在のブラジルはそうした既存のイメージを覆し、グローバルサウスを率いる国家へと急成長を遂げつつある。とりわけ金融面では、独自に構築した電子決済システムで世界市場を狙い、日本以上にIT化が進んでいる。本連載では『ブラジルが世界を動かす 南米の経済大国はいま』(宮本英威著/平凡社新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。フィンテック領域の躍進や日本企業との関係を中心に、国際社会において存在感を増している南米の大国の「いま」を探る。
第2回は、2020年のサービス開始以来、瞬く間にブラジル総人口の約7割が利用するようになった電子決済システム「PIX(ピックス)」を取り上げる。高い利便性だけではない、急速な普及の背景にあったブラジル特有の金融事情とは?
人口の7割が利用する「PIX」
ブラジルで急速に聞く機会が増えた言葉がある。PIX(ピックス)だ。
銀行口座間の送金を、素早く可能にする決済システムで、24時間365日、夜間や休日もその場で送金が完了する。「PIX使える?」「PIXで支払います」というように使われている。
日本の「PayPay」「メルペイ」のようなシステムと考えてもらいたい。日本ではQRコード決済が乱立しており、基本的には支払う側と受け取る側が同じサービスを利用していることが決済の条件となる。
ブラジルではこの中央銀行が導入した即時決済システムPIXを大半の市民が用いている。
電子決済なので、現金を持ち歩く必要はなくなる。クレジットカードに比べて、店舗側が支払う手数料は少ない。専用端末も必要ない。スマートフォンで全てが完了する。利用者は納税者番号や携帯電話、メールアドレスのどれかがあれば、開設は簡単だ。
実店舗やオンラインでの支払いだけではなく、割り勘にも広く使われている。例えば、誕生日プレゼントを共同で購入した場合、「後でPIXするね」「PIXのキーは携帯番号?」といった会話が日常生活の決まり文句になっている。