「ブラジル」と聞くと、多くの読者はコーヒー、サッカー、サンバといったキーワードを真っ先に思い浮かべるのではないだろうか。ところが、現在のブラジルはそうした既存のイメージを覆し、グローバルサウスを率いる国家へと急成長を遂げつつある。とりわけ金融面では、独自に構築した電子決済システムで世界市場を狙い、日本以上にIT化が進んでいる。本連載では『ブラジルが世界を動かす 南米の経済大国はいま』(宮本英威著/平凡社新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。フィンテック領域の躍進や日本企業との関係を中心に、国際社会において存在感を増している南米の大国の「いま」を探る。
第4回では、SOMPOホールディングス、ダイハツ工業、味の素など、国内大手企業においてブラジル駐在経験者がトップに就任する人事が目立ち始めた近年の傾向から、新興国におけるビジネス経験を通じて得られることを探る。
ブラジル駐在から企業トップに
2024年前半はブラジル駐在を経験した日本人経営者を取り巻くニュースが相次いだ。
SOMPOホールディングスは1月、奥村幹夫が社長兼最高執行責任者(COO)からグループCEOに昇任すると発表した。保険金を不正請求した中古車販売大手ビッグモーターとの取引問題からの再生に取り組む。奥村は「不退転の覚悟で企業風土の改革に取り組んでいく」と語った。
奥村はサッカーの名門である筑波大の蹴球部出身だ。元日本代表の長谷川健太が同級生で、後輩には中山雅史や井原正巳がいる。そうそうたるチームメートと共にボールを追いかけた後に、ブラジルに留学してサッカーだけでなく、語学の腕を磨いた。卒業後は旧安田火災海上保険に入社して同国に駐在した経験がある。
いったん退社して投資銀行に勤務した時期もあったが、09年に現在のSOMPOに復職したのはブラジルでの事業にかかわるためだった。同社が買収した個人向け保険マリチマの取締役として、再編を担った。南米安田保険との合併という利害関係者が多い難しい課題に取り組んだ。
14年にはサッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会があった。サンパウロに駐在していた奥村は当時、日本サッカー協会の国際委員を務めていた。キャンプ地の選定などで協会関係者を手助けしており、社業の枠にはとどまらない活躍が当時の駐在員の間で話題だった。