メルカドリブレの黄色い車
画像提供:平凡社

「ブラジル」と聞くと、多くの読者はコーヒー、サッカー、サンバといったキーワードを真っ先に思い浮かべるのではないだろうか。ところが、現在のブラジルはそうした既存のイメージを覆し、グローバルサウスを率いる国家へと急成長を遂げつつある。とりわけ金融面では、独自に構築した電子決済システムで世界市場を狙い、日本以上にIT化が進んでいる。本連載では『ブラジルが世界を動かす 南米の経済大国はいま』(宮本英威著/平凡社新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。フィンテック領域の躍進や日本企業との関係を中心に、国際社会において存在感を増している南米の大国の「いま」を探る。

 第1回は、ブラジル国内において個人消費額が年々大きく増加しているEC(電子商取引)市場の現状と、その背景としても挙げられるファベーラ(貧民街)でのネット普及がもたらした社会の変化を紹介する。

活発なオンライン取引

ブラジルが世界を動かす』(平凡社)

 ブラジル人はSNSやスマートフォンに多くの時間を費やしている。自然と自分の端末からの買い物も多い。

 調査会社ネオトラストによると、2022年のブラジルの電子商取引(EC)市場は2110億ドルと、21年比で38%増加した。26年には4270億ドルに伸びると見通している。1人あたりの消費額では22年は21年比37%増の981ドルだった。26年には1938ドルまで増えると予測する。

 ブラジルの検索エンジン最適化(SEO)企業コンバージョンによると、ブラジルのEC市場ではメルカドリブレが首位だ。米アマゾン・ドット・コム、シンガポールのネット通販「ショッピー」、ブラジル小売り大手マガジンルイザなどが続いている。

 SHEIN(シーイン)は積極的な宣伝で顧客を伸ばしている一方で、地場の小売り大手ロジャス・アメリカナスは不正会計疑惑の影響で苦戦している。

 メルカドリブレは中南米では広く浸透している。1999年にアルゼンチンで創業したが、現在は世界18カ国で展開している。同社にとってブラジルは「中南米全体の売り上げの54%を占める最大の市場だ。同時に最も競争の激しい市場のひとつでもある」(メルカドリブレのブラジル代表を務めるフェルナンド・ユネス)といい、基盤強化に注力している。