生物界における突然変異のように、一人の個人が誰も予期せぬ巨大なイノベーションを起こすことがある。そのような奇跡はなぜ起こるのか? 本連載では『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の著書がある京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンスの特定教授・木谷哲夫氏が、「イノベーター」個人に焦点を当て、イノベーションを起こすための条件は何かを探っていく。
前回に続き、今回はグーグルのイノベーションを生み出し続ける秘訣に迫る。同社を大きく成長させるために、共同経営者ラリー・ペイジが下した優れた決断とは?
ラリー・ペイジの原点
ラリー・ペイジは12才(日本では小学6年生!)の時に電気工学者のニコラ・テスラの伝記を読み、涙を流したという。テスラは交流電源を発明するなど新しいアイデアを数多く生み出したが、商売が下手だったためにニューヨークの安ホテルで孤独、極貧の中で亡くなった。
拙著『イノベーション全史』でも書いたが、イノベーションとは、「新しさ」×「普及」である。新しいアイデアは、普及して初めて、単なる思い付きではなく、イノベーションとなる。普及のためにはビジネスとして成功しないといけないのだ。
ペイジは次のように言っている。「テスラは素晴らしい発明家だったが、資金を確保できなかったために、全てのアイデアを実現することはできなかった。もし、彼が失敗していなかったら、今頃は大陸を横断する無線電力網が完成していただろう」(2011年9月、グーグル主催「時代精神会議」でのスピーチ)。
彼が子供の時にすでに、「科学者として偉大でも自分の発明を普及させるビジネスマンの才覚がないと偉大になれない」と確信したということだ。これが彼の原点であり、後のグーグルの大成功につながっていく。
夢を実現したいと思っているエンジニアなら誰しも、知らない人に経営を任せることには抵抗があるはずである。しかし、エンジニアが社長を続けた結果つまずいているスタートアップを、私は実際に数多く見てきた。
しかし、ペイジはアイデアだけでは成功しない、イノベーションを起こすためにはビジネスでも成功する必要がある、と分かっていたからこそ、ベンチャーキャピタリストのジョン・ドーアの勧めを受け入れ、エリック・シュミットを社長にし、自分は社長からいったん降りることができたのだ。