写真提供:©Thiago Prudencio/SOPA Images via ZUMA Press Wire/日刊工業新聞/DPA/共同通信イメージズ

 国際情勢の緊迫化、サプライチェーンの混乱、原材料費や人件費の高騰、サステナビリティへの関心の高まり――。調達を巡る環境が複雑化する中、日本企業の多くが調達機能の重要度を十分に認識せず、理解のギャップが拡大している。その溝を埋め、環境変化に適合した調達機能へとアップグレードすることは喫緊の課題と言っていい。本連載では、『BCG流 調達戦略 経営アジェンダとしての改革手法』(ボストン コンサルティング グループ 調達チーム編/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集し、調達機能のあるべき姿と機能向上に向けた取り組みを解説する。

 第1回は、調達におけるサステナビリティ対応の先進事例を紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 インテル、IBM、ファイザーほか製薬大手は、なぜサプライチェーンに大規模投資を行うのか?(本稿)
第2回 最安値が正義ではない、調達部門が直面しやすい「トレードオフ」の3つのパターンとは?
第3回 アマゾンは、いかにして調達における「競争優位性」を築き上げたのか?
第4回 調達業務が高度化する中、日本企業はなぜ専門人材の供給・育成に注力しないのか?
第5回 CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?
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サステナビリティ対応 ――サプライヤー・エコシステムの進化

 ESGをめぐっては複数の側面から企業運営に対するプレッシャーが高まっている。社会の新しい要求にうまく対応できない場合には、売上減少、レピュテーション(評判)の毀損、株価など企業価値への悪影響が生じる。したがって、企業としてはまずは「守り」を固めなくてはならない。

 実際に、欧米の大手企業や政府機関を中心にサプライチェーン全体のサステナビリティ対応を取引条件に含めるケースが増えている。例えば、アップルはサプライヤーに環境や労働条件などの厳格な基準を満たすよう求めている。これらの基準に達しない企業とは取引を行わないという方針を掲げているのだ。ここで対応が後手に回れば、失注リスクは確実に高まる。

 さらに、国や自治体の間でも、環境に配慮した製品やサービスの導入を優先するグリーン調達が広まっている。入札時にサステナビリティ対応を行う企業が優遇される事例も増えている。

 銀行などの金融機関も企業のESGリスクを評価し、その結果に基づいて融資を推進する傾向が強くなっている。環境保護に配慮したプロジェクトへの投資や、環境負荷の低い企業への融資を優先する取り組みも加速しており、今後はサステナビリティ対応が遅れている企業は資金調達が困難になっていくだろう。

 このような環境変化を受けて、先進企業は取引先の選定について、コストや品質、納期などこれまで重要視されていた評価項目に加えて、サステナビリティの観点も取り込んで意思決定している(下図)。

 コストや安定調達などの観点と、サステナビリティの観点の間にはトレードオフが生じるが、図表の例では、QCD(Q:品質、C:コスト、D:納期)観点でまず加点減点式で評価したうえで、サステナビリティ観点を加点する、と判断基準を明確にしている。多くの企業で同様の例が見られ(下図)、サステナビリティ対応をきっかけに、調達における大きなゲームチェンジが起きつつあるといえる。

 新たな要請に対して積極的に取り組み、対応できた企業は製品・サービスや企業価値の面で優位性を築ける。言い換えれば、サステナビリティ対応には「守り」だけでなく、「攻め」の側面もあるということだ。

 実際に、ESGパフォーマンスに注目して投資対象を選定する機関投資家が増えている。企業のESG評価が高いほど、投資家からの評価が高まり、資本市場からの資金調達が容易になることが想定される。

 人権をはじめとするサプライヤーリスクマネジメントを出発点に、自社の取り組みを全面的に見直すことで、サプライヤー・エコシステムを進化させることもできる。

 社会課題に関して法規制を含めた外圧が高まる中で、守りと捉えて対応するだけでなく、それを攻めに転じて成功しているのが、一部のテクノロジー企業だ。