例えば、児童労働や性差別などに対する指摘を受けてきたインテルは、攻めの対応として、サプライヤーダイバーシティ・プログラムに大規模投資を行い、多様性を備えた企業から製品やサービスを購入する取り組みを進めてきた。IBMも全世界でダイバーシティ認定された1次サプライヤーに12億ドルを支出した。

 このようにサステナビリティ対応はサプライヤーとの関係性を変えつつある。その中で、業界が一丸となって取り組んでいる先進的な例として、製薬業界をご紹介したい。

■ 事例 サプライヤーのCO2削減を目指す製薬大手の連携

 医薬品業界では、製品の特性上サプライチェーンの途絶は重大な問題だ。自動車や家電製品であれば、主要部品が入手できずに納期が数カ月遅れても、顧客は待ってくれる可能性がある。しかし医薬品の場合、サプライチェーンのどこかで問題が起こって供給が止まり、代替可能な医薬品がなければ、患者の命に関わることさえある。

 医師は当然ながら、供給不安のある医薬品の採用をためらうだろう。健康を扱うエッセンシャル産業である医薬品業界は、社会的責任を果たすためにも、サプライヤーとの協力関係を築き、ビジネスの持続可能性を追求していかなくてはならない。

 環境問題もまた、医薬品企業にとって無視できないテーマとなっている。というのも、気候変動は私たちの健康に大きな影響を及ぼすからだ。例えば毎年、大気汚染だけで約700万人、極度の暑さで500万人が亡くなっている。猛暑による死亡者数は2050年までに3倍になるとする予測もある。

 カーボンニュートラルを目指す取り組みでは、自社が直接接点を持たないサプライチェーン構成企業の活動実態(スコープ3)はつかみにくく、医薬品業界でも課題視されてきた。

 個社で取り組むのは難易度が高いことから、ファイザー、ジョンソン&ジョンソン、武田薬品工業など世界の製薬大手10社が共同で、サプライヤーのCO2削減を支援する取り組みを始めている。原材料から包装材も含めたサプライヤー1000社以上に共通システムを導入してもらい、電力や水の使用量、廃棄量の情報を集約する。これら数値を分析すれば、CO2排出量に換算できるようになる。これにより、サプライヤーから購入した製品・サービスの排出量が算定可能となる。

 サプライヤーには当然中小零細企業も含まれるため、対応リソースが大企業ほど十分ではない。数多くの製薬企業からの可視化要請に個別に応えるのは負荷が高く、問題視されていたが、その解決の一助になるだろう。

 製薬企業側も、可視化のためのインフラ投資を個社ごとに行う場合の負担は大きく、業界共通システムとして共同利用する効果は大きい。これは世界初の多国籍企業間の具体的な連携の動きとして注目されている。

<連載ラインアップ>
■第1回 インテル、IBM、ファイザーほか製薬大手は、なぜサプライチェーンに大規模投資を行うのか?(本稿)
■第2回 最安値が正義ではない、調達部門が直面しやすい「トレードオフ」の3つのパターンとは?(11月1日公開)
■第3回 アマゾンは、いかにして調達における「競争優位性」を築き上げたのか?(11月8日公開)
■第4回 調達業務が高度化する中、日本企業はなぜ専門人材の供給・育成に注力しないのか?(11月15日公開)
■第5回 CPO(最高調達責任者)設置を基点とした、調達の「経営アジェンダ化」と「ガバナンス構築」のポイントとは?(11月22日公開)

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