人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」。この新しい経営の在り方が世界的に注目を集める中、日本の各業界のCHRO(最高人事責任者)がラウンドテーブルに集い、先進的な議論を進めている。
「CHROラウンドテーブル」を立ち上げた、富士通取締役執行役員SEVP CHROの平松浩樹氏に、その狙いと成果について聞いた。(前編/全2回)
■【前編】人的資本経営には、なぜ「ストーリー」が必要か?富士通の平松浩樹CHROが語る、経営戦略と人材戦略の連動(今回)
■【後編】エンゲージメント調査の“落とし穴”と効果的な活用法とは?富士通の平松浩樹CHROが語るデータドリブンな人事
日本は戦略的に人材に投資できていたか
――2022年3月から、業界を越えた各社のCHROが集まって共通の課題について議論を進めるCHROラウンドテーブルを開催しています。まずはこのような取り組みを始めた経緯と狙いについて教えてください。
平松浩樹氏(以下敬称略) その頃から人的資本経営が、人事にとって非常に重要なトピックスとなっていました。人的資本経営とは、人材をコスト管理の対象である「資源」ではなく、投資の対象である「資本」と捉えて価値創造を目指すものです。
そのきっかけとなった経済産業省の「人材版伊藤レポート」(2020年9月発表)では、経営戦略と人材戦略を連動させ、持続的な企業価値向上につなげていくため、日本企業は本気で変わらなくてはいけないと強く提唱されていました。
もちろんそれまでも、日本企業が人材をおろそかにしてきたわけではありません。しかし、経営環境が大きく変化してきた中で、今や人材育成投資にしても、平均給与額にしても、日本は先進諸国の中でも低位に甘んじている。改めて振り返ると、日本企業は人を大切に考えてきたものの、企業価値向上につながる戦略的な人材投資は十分にできていなかったのではないかという反省もありました。では、それをどのように実践していくのか。