15年後に生き残れるのは、どのような自動車メーカーなのか? 脱炭素化、AI普及など、世界が「ニューノーマル」(新常態)に突入し、ガソリンエンジン車主体の安定した収益構造を維持できなくなった企業が考えるべき新たな戦略とは? シティグループ証券などで自動車産業のアナリストを長年務めてきた松島憲之氏が、産業構造の大転換、そして日本と世界の自動車メーカーの、生き残りをかけた最新のビジネスモデルや技術戦略を解説する。
第9回は、電気自動車(EV)の販売原則の要因、EV戦略を転換する主要メーカーの動き、さらにゲームチェンジの材料となる戦略技術「EV用電池」の生産における日系メーカーの最新動向に迫る。
EVの販売減速の要因は消費者の不満
電気自動車(EV)販売が欧米で減速してきた。新製品に飛びつくアーリーアダプター需要が一巡し、いよいよ一般消費者が需要の柱になる時期を迎えたのだが、予想していたほど一般消費者のEVへの購買意欲が盛り上がらないのが販売減速の要因だ。
EVはアーリーアダプターなどを中心に販売が増加したものの、EVに期待した利便性が不十分であることを一般の消費者が分かり始めたことが減速の背景にある。改善はされてきているとはいうものの、現在のEVの性能やそれをサポートするインフラ整備は、まだ消費者に十分な満足感を与えられる水準とは言い難い。
消費者にとってはEVとハイブリッド車(HV)との比較が容易なだけに、以下のような不満が解消できないとEV需要は大幅に拡大できないし、逆に当面はHV需要が盛り返すだろう。
EVに対する消費者の不満は以下のように整理できるが、解消されるまでには、バッテリーの性能向上やコスト削減が必要なため時間がかかる。
- EVの長距離走行では、バッテリーがなくなったら走れなくなるという「電欠不安」が常にある(HVは安心して500km以上の走行が可能)。
- 充電インフラが少なく、充電にも時間がかかる(HVなら5分で給油ができ、ガソリンスタンドもまだ多数存在)。
- 夏冬は冷暖房に電力を多く使用するため電力消費が速く、冬はバッテリー性能にも影響が出る(HVも冷房は燃費に多少影響するが、暖房はエンジンなどの熱を活用するので燃費への影響は気にならない)。
- 中古車として売りに出したら下取り価格が極めて低かった(HVはEVほど中古価格が安くはならない)。