(左から)ダイキン 執行役員 空調生産本部 副本部長 兼 滋賀製作所長の羽東公一氏、常務執行役員 空調生産本部長の森田重樹氏、空調生産本部 滋賀製造部 担当部長の井上勝己氏(撮影:栗山主税)

 ダイキン工業(以下、ダイキン)が堅実に成長してきた要因の一つに、海外事業の拡大がある。それを物語るのが、同社の空調における海外売上高比率85%という数字だ。空調は地域の気候や文化によって求められる機能や需要の波に極端な差がある。それらに細かく対応した生産体制を構築するため、同社はグローバルの生産において「市場最寄化戦略」を取ってきた。こうした戦略の中心にいるのが、マザー工場であるダイキン滋賀製作所である。ダイキンのグローバルにおける生産戦略と、その中での滋賀製作所の役割を見ていく。(後編/全2回)

【前編】需要変動が大きいルームエアコン、ダイキン滋賀製作所が「3日ごとの生産計画」を実現するまで
■【後編】「求心力」と「遠心力」で市場拡大、ダイキンが世界に展開する「地域マザー」工場の役割※本稿

全世界に90の生産拠点、マーケットの近くに工場を作る意味

 2023年から2024年にかけて、ダイキンは5つの地域で新工場を立ち上げている。ポーランド、インド南部、中国、メキシコ、インドネシアに生産拠点を作る計画だ。海外で拡大する空調需要に対応するためだという。

 5つの地域に細かく新工場を立ち上げる姿勢には、ダイキンのグローバル生産における基本戦略が現れている。

 企業が製品をグローバルに展開する場合、効率性や品質の担保などを目的に“一極集中”の生産体制を取る方法も考えられる。大きな生産拠点を一つ構え、そこで作った製品を複数の離れた地域へ届ける形だ。

 しかし、ダイキンの生産戦略はその反対を行く。「基本的な考え方として、各マーケットの近くにそれぞれ生産拠点を構えてものづくりをする『市場最寄化戦略』を進めてきました。なぜなら空調は国や地域ごとにニーズや需要変動が大きく異なります。気候や文化、生活様式の違いが関連するためです。それらにきめ細かく対応するのがこの戦略です」。ダイキン 常務執行役員 空調生産本部長の森田重樹氏は、同社の生産戦略の狙いをそう説明する。

ダイキン工業 滋賀製作所(提供:ダイキン工業)

 空調事業の肝である「生産リードタイムの短縮」においても、この戦略にはメリットがある。空調は季節商品であり、直近の気候によって需要変動が起きる。空調メーカーは、気候や消費者の動向に合わせて素早く製品を市場に供給することが求められる。その点、市場の近くに生産拠点があるとリードタイムを短縮しやすい。

「その他のメリットとして、当社はコロナ禍でも生産供給を続けられたように、マーケットに近い分サプライチェーンの寸断が起きにくい点も挙げられます。加えて、為替変動のリスクヘッジができるのも大きいと考えています」(森田氏)

 近年は生産のみならず、商品開発の拠点もマーケットの近くに増やしている。市場のニーズを近くでくみ取り、求められる商品や機能をスピーディに開発する体制を作っているという。

 ダイキンは海外の売上を順調に伸ばしてきた。空調事業全体に占める海外売上高の割合は、2015年度の77%から2023年度には85%まで増加している。地域ごとの割合を見ると、日本15%に対し、米州39%、欧州17%、アジア・オセアニア15%、中国11%、アフリカ・トルコ・中近東等4%となっている(すべて2023年度の実績)。全地域で継続的に売上を伸ばしており、その原動力に市場最寄化戦略がある。

 実際、ダイキングループの生産拠点は全世界で約90拠点、開発拠点も36拠点に及ぶ。グローバルの各拠点では「日本で培った技術をベースに、地域にあった独自商品を開発・生産しています」と森田氏。さらには、それら地域独自の商品を他拠点に素早く水平展開し、グループ全体での幅広い商品ラインナップを実現しているとのことだ。