ダイキン工業(以下、ダイキン)の主力製品である家庭用ルームエアコン。この製品は季節ごと日ごとの需要変動が大きく、その“波”に合わせて生産量をコントロールすることが求められる。そこで同社の工場では「変種変量生産」という生産方式を構築し、直近の需要に合わせて短期サイクルで生産計画を立てることを可能にした。その生産方式の構築や実践をけん引しているのが、国内ルームエアコンの製造拠点である滋賀製作所だ。ダイキンのものづくりを支える滋賀製作所の強さを解き明かす。(前編/全2回)
■【前編】需要変動が大きいルームエアコン、ダイキン滋賀製作所が「3日ごとの生産計画」を実現するまで※本稿
■【後編】「求心力」と「遠心力」で市場拡大、ダイキンが世界に展開する「地域マザー」工場の役割
サイクルの短期化を極めた、ダイキン独自の生産方式「PDS」
滋賀県草津市にあるダイキン滋賀製作所は、1970年に竣工された。以来、国内における家庭用ルームエアコンの開発・生産拠点として同社の事業を支えてきた。年間の生産台数は112万台に及ぶ(※2023年実績。給湯器・業務用空調機を含む)。従業員は1600名以上、敷地面積は25万平方メートルだ。甲子園球場7個分の広さだという。海外拠点の生産を支援する「マザー工場」にもなっている。
ダイキンは「PDS(Production of Daikin System)」と呼ばれる独自の生産方式を築き上げてきた。そのコンセプトは「売れるものを、売れる時に、売れるだけ作り、お客さまへお届けする」ことだという。滋賀製作所はPDSの構築や実践をけん引してきた存在といえる。
PDSを簡潔に説明すると、短期サイクルで生産計画を立て、市場の需要に合わせて適切に商品を供給するものだ。この生産方式が誕生した背景として「需要の波が大きく変動する」というエアコン市場の特性が大きく関わっている。
エアコンの年間需要を見ると、夏場と冬場で4倍ほどの差がある。おおむね6、7月が需要のピークとなり、10月頃がもっとも低い。さらに日々の需要変動も大きく、気温の高低により売れ行きが異なる。特に夏場はその傾向が顕著になるという。
加えて、ダイキン製品の機種数も年々増加しており、滋賀製作所でも670ほどの機種(室内機ベース)を扱っているとのこと。これらの機種全体で細かな需要の波に対応するには、短期サイクルで生産計画を細かく立てることが重要になるという。
仮に1カ月単位で生産計画を立てると、需要に追随できず供給過多や不足が生じかねない。そのため、週単位、数日単位というように生産計画のサイクルを高速化させなければならない。
こうした考えからPDSが生まれ、現在まで進化してきた。「PDSの根底にあるのは徹底したムダの排除とコスト低減です。残すものは残す、変えるべきものは変えるという考えのもと、生産方法を改善してきました」。こう話すのは、ダイキン 常務執行役員 空調生産本部長の森田重樹氏である。