ファナック FA研究開発統括本部 本部長の野田浩氏(撮影:川口紘)

 世界トップシェアの企業は、どのような技術で市場競争に勝ってきたのか――。工作機械用CNC(コンピュータ数値制御)装置で国内・海外でトップクラスのシェアを保持するファナック。同社は1956年に民間企業として日本で初めてNC(数値制御)装置を開発し、以来、さまざまな製品によって世界の工場の自動化を推進してきた。その技術のコア部分はどこにあるのか。ファナック FA研究開発統括本部長の野田浩氏に話を聞いた。(前編/全2回)

成長を生んだ「故障率の低さ」、どう実現しているのか

 ファナックの成長を生んできた要因の一つに、故障に対する企業姿勢がある。同社が掲げる「壊れない、壊れる前に知らせる、壊れてもすぐ直せる」というキーワードはその表れだ。商品の生涯保守を基本とし、世界100カ国以上に270以上のサービス拠点を置いている。たとえ壊れても、すぐに対応する体制を整えているという。

 とはいえ、「壊れない」を実現するのは簡単ではない。壊れる前に知らせる、壊れてもすぐ直せるというのは、方法をイメージしやすい。しかし根本的な故障を減らすのは高度なテーマといえる。機械メーカーの最重要課題だろう。

 どのように「壊れない」を実現しようとしてきたのか。野田氏はこう答える。

「設計段階から『商品の信頼性を作り込むこと』をポリシーにしています。人工的に作る以上、完全に『壊れない』ということはあり得ません。当社のキーワードも、正確には壊れにくい商品を作ること、故障率を極めて低くすることを意味します。開発の時点から、そうした信頼性を念頭に置いて設計しています」

提供:ファナック

 設計段階から信頼性を作り込む。その姿勢を表すファナックの取り組みが「臨時製造部長制度」だ。商品の開発設計者が一定期間、その商品の製造部長も務める。つまり設計者が工場に行き、製造現場の責任者になることを意味する。主に新商品の製造初期、製造が安定するまでの期間を臨時で務める。

「この制度の狙いは、設計者が製造のことまで考えて開発することにあります。どれだけ素晴らしい設計をしても、それを作る製造現場に即していなければ最終的な品質は落ちてしまうでしょう。例えば製造の難易度が非常に高いと、高度な設計でも製造時に品質を保つのが難しくなります。それが故障を引き起こします。こうしたリスクを減らす制度といえます」

 この他に信頼性を作り込む姿勢として、先述のように、ファナックは世界各国に270以上のサービス拠点を設置している。「お客さまの現場で起きた問題や保守情報は常に収集しています。その情報は開発部門へフィードバックされ、次の技術開発に生かされています。シンプルですが、その繰り返しで技術を高めてきました」。

 故障を減らすのは、機械メーカーが追求する当然の使命だ。一方で、あまりに故障率が低いと買い替えが進まないという面はないのだろうか。追求し過ぎれば、経営にとってマイナスにならないか。そのような質問に対して、野田氏は首を横に振る。

「当社が市場の信用を獲得できた大きな要因は、商品の壊れにくさです。CNCやそれを搭載した工作機械が故障することは、工場の稼働停止につながります。それは大きな損害を引き起こすでしょう。また工作機械は中古品として出回ることも多く、新品を購入したお客さまはもちろん、次のお客さまも中古品を通してファナックの商品が壊れにくいと実感していただけます。すると、次回の購入時は当社商品が候補に上がります。その中で事業を拡大できたのです」