「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。
第3回は、八木氏流の「ブランド」の定義と、ブランドのデザインの仕方について、ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂の例で紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 フェラーリ、ポルシェ、エルメスは、なぜ他のブランドに代替されないのか
■第2回 なぜ「いい感じにしてください」で「いい感じ」にならないのか? ブランドの独自性をデザイナーと発見する秘訣とは
■第3回 ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?(本稿)
■第4回 スターバックスとユニクロは、なぜコーヒースタンドと普段着の常識を覆せたのか?
■第5回 ワークシートで分析、スターバックスの「サードプレイス」、ユニクロの「LifeWear」はどのように生まれたか?
■第6回 ブランドの「らしさ」を凝縮するネーミングのポイントと、ステートメントの開発法とは
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■ 「ブランド」はらしさ
「ブランド」と言うと、シャネルやルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドを想像される方も多いと思います。「ブランド品」という言葉などもありますが、実はブランドは「ラグジュアリーブランド」を指すわけではありません。
ブランドの語源は、「焼印をつける」という言葉からきていて、もともとはワインの樽や家畜などに焼印をつけることを意味していたそうです。ブランドという言葉が本来指すのは、似たものが混在する中で、競合商品と間違えないための印であったと言うことができます。
「近代マーケティングの父」とも呼ばれるマーケティング界の第一人者、フィリップ・コトラー教授は、ブランドを次のように定義しています。
アメリカ・マーケティング協会は、ブランドを、「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合会社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」と定義している。ブランドは当該製品やサービスに、同じニーズを満たすために設計された他の製品やサービスから、何らかの形で差別化する特徴を加える。その差別化要因は、機能的、合理的、あるいは実体がある――つまりブランドの製品パフォーマンスに関連する場合もあれば、象徴的、情緒的、あるいは実体がない――ブランドが体現するものに関連している場合もある。
――フィリップ・コトラー+ケビン・レーン・ケラー
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編』
(ピアソン・エデュケーション、2008)
この説明は難しく、直感的に理解しづらいので、私なりに再解釈したものが以下になります。
ブランドとは、名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせが一貫した思想と世界観のもとで開発されており、独自の価値(=らしさ)を持つもの。
これが私の考えるブランドの定義です。ブランドの「らしさ」を可視化する時の例えとして、私は「ブランドの人格」という表現をよく使っています。ブランディングの用語として、「ブランドパーソナリティ」と呼ばれるものです。
ブランドを人格として想像すると、直感的に「好き」かどうかを判断しやすくなるというメリットがあります。ブランドの人格を、有名な4つのブランドを例に考えてみましょう。「ナイキ」「スターバックス」「無印良品」「資生堂」の4つの人格を、私なりの解釈で表現してみると次のようにまとめることができます。