写真提供:Beata Zawrzel/NurPhoto/©Sebastian Ng/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 第4回は、スターバックスとユニクロを例に、独自の「ブランドコンセプト」を創り出す考え方を紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 フェラーリ、ポルシェ、エルメスは、なぜ他のブランドに代替されないのか
第2回 なぜ「いい感じにしてください」で「いい感じ」にならないのか? ブランドの独自性をデザイナーと発見する秘訣とは
第3回 ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?
■第4回 スターバックスとユニクロは、なぜコーヒースタンドと普段着の常識を覆せたのか?(本稿) 
第5回 ワークシートで分析、スターバックスの「サードプレイス」、ユニクロの「LifeWear」はどのように生まれたか?
第6回 ブランドの「らしさ」を凝縮するネーミングのポイントと、ステートメントの開発法とは

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【スターバックスの例】

デザインを、経営のそばに。』(かんき出版)

 有名な例ですが、スターバックスのブランドコンセプトは「サードプレイス(第3の場所)」です。

 サードプレイスという概念は、社会学者のレイ・オルデンバーグが1989年に著書『サードプレイス――コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』(忠平美幸訳、みすず書房)の中で提唱したものです。

 当時のアメリカは、価値観の断片化が進んだ結果、過剰なハイテンション社会になりました。職場では競争のプレッシャーが強く、家庭にもいろいろな問題があります。家(第1の場所)と職場(第2の場所)を往復する人が多く、非常にストレスフルな状況でした。

 そのような状況の中で、ドイツのビアガーデンやイギリスのパブ、フランスやイタリアのカフェのような、「人々には居心地のいい第3の場所が必要なのではないか」という発想から、スターバックスのコンセプトは生まれました。

 つまり、スターバックスの商品は単にコーヒーを提供するだけではなく、コーヒーとともに心安らぐ体験を提供することなのだと言うことができます。

 現在のスターバックスでの体験を改めて思い返してみても、いわゆるコーヒースタンドとは異なる点が多く、サードプレイスというブランドコンセプトに基づいて今も運営されていることがよくわかります。

 例えば、飲食店では、回転率を上げて、たくさんのお客様に利用してもらうことを目標に設定することが多いのですが、スターバックスでは居心地のよい椅子が用意されており、長い時間くつろぐことができます。タバコを吸いたいお客様を逃してしまう可能性があるにもかかわらず、禁煙を徹底し、店内の居心地のよさを重視している点も特徴的です。

 また、スターバックスは、ブランディングを徹底するために、自社で直接店舗運営を行う「直営方式」を採用しています。

 ほとんどの大手企業はフランチャイズ方式を採用しており、一見こちらのほうが効率がいいように感じられますが、フランチャイズ方式は、本部と加盟店という関係が生まれ、本部としては安く簡単に展開できるというメリットがある一方で、それぞれの加盟店に判断を委ねているため、ブランド管理が難しいというデメリットがあります。

 スターバックスは一見効率が悪いように見える直営方式を通じて、ブランド管理を徹底しているのです。スターバックスの例を、サーチライトの図で整理してみると、上の図のようになります。サードプレイスというブランドコンセプトが、コーヒースタンドの常識を変え、新しい市場をつくり出したことがわかります7 8

7 参考文献 レイ・オルデンバーグ『サードプレイス―ー コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』(忠平美幸訳、みすず書房、2013)

8 参考文献 楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』(東洋経済新報社、2010)