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「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 第5回は、優れたブランドコンセプトをつくるための考え方について、スターバックス、ユニクロ、スノーピークなどの事例を基に解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 フェラーリ、ポルシェ、エルメスは、なぜ他のブランドに代替されないのか
第2回 なぜ「いい感じにしてください」で「いい感じ」にならないのか? ブランドの独自性をデザイナーと発見する秘訣とは
第3回 ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?
第4回 スターバックスとユニクロは、なぜコーヒースタンドと普段着の常識を覆せたのか?
■第5回 ワークシートで分析、スターバックスの「サードプレイス」、ユニクロの「LifeWear」はどのように生まれたか?(本稿) 
第6回 ブランドの「らしさ」を凝縮するネーミングのポイントと、ステートメントの開発法とは

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デザインを、経営のそばに。』(かんき出版)

 前回(第4回)ご紹介した、スターバックスのコンセプトである「サードプレイス(第3の場所)」。他のコーヒーチェーンがコーヒーのおいしさや値段で勝負している中で、このコンセプトはスターバックスの「らしさ」の源になっています。

 サードプレイスというコンセプトを設定したことで、スターバックスが売っているのはコーヒーだけではなく、サードプレイスでの体験だということが規定できています。

 その結果、ゆったりと過ごせる空間をつくったり、独自の教育方針でバリスタと呼ばれるスタッフを育てたりするなど、他のコーヒーチェーンにはない、唯一無二の体験を生み出しています。

 スターバックスのコンセプトをコンセプトワークシートに当てはめると、下の図のように整理できます。

 もう1つの例としてユニクロの「LifeWear」も、整理してみたいと思います。「LifeWearとは、あらゆる人の生活を、より豊かにするための服。美意識ある合理性をもち、シンプルで上質、そして細部への工夫に満ちている。生活ニーズから考え抜かれ、進化し続ける普段着です。」と規定されています。

 コンセプトワークシートに当てはめると、下の図のように整理することができます。

 スターバックスもユニクロも、すべての枠が、一貫した考え方で矛盾なく整理することができました。ブランドコンセプトを開発するための、「簡単なハウツー」は残念ながらありません。

 私が経験してきた限り、どんな仕事においても、ブランドコンセプトはこれまでにない新しい定義を考えなければいけないため、「これだ」という案が見つかるまでの道のりは平坦ではありませんでした。

 コンセプトとは、様々な方向性を全員で持ち寄り、考え抜いた末に生まれるものです。

「ブランドについて」と「ターゲットについて」を行ったり来たりしながら、ブランドコンセプトを考えていくしかありません。

 ただ、例がなければ考えることは難しいかもしれませんので、ヒントとして、優れたブランドコンセプトの例を3つ紹介します。