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「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 第6回は、ブランドの思想と世界観を伝えるネーミングとステートメントの秘訣を紹介する。

● ネーミングをつくる

デザインを、経営のそばに。』(かんき出版)

 ブランドコンセプトが固まったらブランドのネーミングを考えていきます。

 ネーミングとは、ブランドの名前であり、ブランドの「らしさ」を短く要約し一言に凝縮したもの。ブランドの魅力がお客様に伝わるように、一言で、印象的に伝える必要があります。

 ネーミングは今後何度も口に出すものであり、ブランドの「らしさ」を伝えるうえで重要な要素です。ブランドコンセプトと同様、チームで案を持ち寄り、アイデアを出し合います。

 ネーミングを開発する際には、以下のポイントを意識してみてください。

ネーミングのポイント

〈1〉覚えやすいか
 ほとんどの人が、メディアを通じて大量の情報に触れ合っています。情報化社会は、近年ますます加速しており、世界の情報量は2030年には現在の30倍以上、2050年には4000倍に達するという予測もあります。10

10 参考文献 総務省“令和4年 情報通信に関する現状報告の概要”

 これだけ情報が溢れている世の中では、ブランド名を覚えてもらうだけでも大変な労力がかかります。ネーミングを考える際は、覚えやすく印象的かどうかをチェックしましょう。

〈2〉ブランドコンセプトと一貫性があるか
 ブランドコンセプトと一貫性があるかどうかをチェックします。ブランドコンセプトとネーミングは、必ずしも同じ内容を語る必要はありませんが、2つの間の考え方に矛盾がないかは確認しておくとよいでしょう。

 一貫性のあるストーリーでブランドコンセプトとネーミングが結ばれることで、ブランドの「らしさ」は明確になります。ネーミングとその由来(=ストーリー)について後述しますので、参考にしてみてください。

〈3〉普遍性があるか
 ほとんどの場合、ネーミングはブランドが生まれてから、なくなるまで使用することになります。短期的な目線ではなく、長い間使用しても古くならない言葉かどうかをチェックしましょう。

〈4〉発音した時の印象がよいか
 発音した時の語感についてもチェックします。

 音には、ある種の音が特定のイメージを呼び起こす「音象徴(おんしょうちょう)」という現象があるそうです。

 例えば「マジンガーZ」「ガンダム」「エヴァンゲリオン」のようなロボットアニメのネーミングは、濁点が使われていることが多く、音の印象からも「強そう」だと感じます。「ポッキー」「パピコ」「プッチンプリン」のようなお菓子のネーミングにはP音が多く使われていて、「楽しそう・ワクワク感」が感じられます。

このように、音の持つ印象があるため、ブランドの「らしさ」と、音の持つ印象が合っているかを確認しましょう。

〈5〉商標登録できるか
 最後に、商標登録についてです。ブランドのネーミングは商標として特許庁へ出願し、登録することをおすすめしています。

 登録をしなくてもブランドを始めることは可能ですが、商標登録を受けないまま商標を使用している場合、先に他社が類似の商標を登録していれば、商標権の侵害にあたる可能性があります。