スイスの世界最大の食品・飲料会社、ネスレの全容を明らかにした『すべてはミルクから始まった』、米国の巨大ヘルスケア企業、ジョンソン・エンド・ジョンソンをクレド(信条、行動指針)の視点から描いた『“顧客・社員・社会”をつなぐ「我が信条」』、個性的な商品展開と利益率の高さで知られる日本のYKKの経営に迫った『YKKのグローバル経営戦略』(以上、同文舘出版)。
グローバル企業についての著作を書き継いできた白鷗大学名誉教授の高橋浩夫氏が、『いま、車が変わる フォルクスワーゲンの経営戦略』(同文舘出版)を上梓した。フォルクスワーゲンを題材に、電気自動車(EV)の登場で業界が大きく動きつつある自動車業界を取り上げた書籍である。描きたかったことは何か、話を聞いた。
■【前編】VW、アウディ、ポルシェは博物館でなぜブランド名を示さないのか? 日独で大きく異なる自動車文化(本稿)
■【後編】「内的成長」か「外的成長」か、フォルクスワーゲンとトヨタの経営における最大の違いとは?
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フォルクスワーゲンの「アウトシュタット」訪問がきっかけ
――これまでグローバル企業の経営を切り口に多彩なテーマを扱っていますが、今回は自動車産業を選びました。その理由は?
高橋浩夫氏(以下敬称略)ご存じのように、自動車産業は今大きな変わり目に来ています。これまで等閑視されてきた社会的コスト、中でも環境への影響に社会の注目が集まり、EV(電気自動車)への移行が始まった。そんな中でグローバル企業がどのような戦略を採って生き延びようとしているのか、興味がありました。
――そこで今、なぜ、フォルクスワーゲンを題材に選んだのでしょうか。
高橋 実は、近年のテーマは過去に訪ねた多国籍企業研究でちょっとセンチメンタルジャーニーめいたところがありまして(笑)。私は1973年の初めに米国のニューヨークにいたんですね。そこで日本自動車工業会(JAMA)のお手伝いで自動車産業についていろいろ調べたことがあり、いつかそのテーマでまとめてみたいと思っていました。
そして数年前、最近はブルガリアによく行っているんですが、帰り道にドイツの自動車会社を訪ねる機会がありました。自動車を世界で初めて造ったと言われるメルセデスベンツ、南ドイツのBMW、さらにアウディ、そしてフォルクスワーゲンの本拠地を一通り見て回り、改めて自動車について関心を持ちました。
フォルクスワーゲンに焦点を当てたのは、たまたま自分の愛車がフォルクスワーゲンだから…というわけではなく(笑)、やはり訪独したときに強い印象を受けたからです。
フォルクスワーゲンの本社は、ドイツの北部のニーダーザクセン州、ウォルフスブルクという街にあります。人口12万人くらいの都市ですね。街の中心部に同名のお城があって、それが町の名前になったそうです。
ウォルフスブルクを訪れたのはその時が初めてでしたが、実は列車でベルリンからフランクフルトに行く途中で通ったことはありまして、電車が駅に停まったらいきなりフォルクスワーゲンの本社が見えるわけです。川を挟んだ向こうに、火力発電所の4本の煙突とか、パビリオンとかですね。
本社、工場、テストコースなどを含めて、まるごと別の一つの街のようだと聞いて、これは一度行ってみたいと考えていました。
実際に行ってみたら、やはり驚きました。中でも「アウトシュタット」。総面積25万平方メートルの、車のテーマパークですね。フォルクスワーゲンの持つブランドごとにパビリオンがあって、車の展示だけではなく、いろいろな体験ができる。平均滞在時間は6時間以上だそうです。
これは知られた話と思いますけれど、フォルクスワーゲンを買うとアウトシュタットで納車してもらえるんですよね。ドイツではナンバーを先に発行してもらえるから、家族みんなでナンバープレートを持ってやってきて、パビリオンや工場を見学し、併設されているリッツカールトンに泊まって、納車式での花束をもらってそこから運転して家に帰る。