写真:Japan Innovation Review編集部

「これでいい」ではなく「これがいい」と思ってもらうことが、これからのブランドには必要だ。現在、似たような商品・サービスが量産され市場に溢れている。それは、他社も同じ手法を取ってデータを集め、分析し、商品開発をしているからだ。だが、デザインの力を経営に取り入れることで、自社の強みや力を発揮した、より魅力的で長く愛される新しいブランドを生み出すことができるかもしれない。本連載では、『デザインを、経営のそばに。』(八木彩/かんき出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。元電通のアートディレクターが15年の経験と豊富な事例を基に、デザインの力でブランドの魅力を引き出すための考え方とプロセスを解説する。

 第2回は、そもそも「デザイン」とは何を指すのか、どんな力を持つのかを解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 フェラーリ、ポルシェ、エルメスは、なぜ他のブランドに代替されないのか
■第2回 なぜ「いい感じにしてください」で「いい感じ」にならないのか? ブランドの独自性をデザイナーと発見する秘訣とは(本稿) 
第3回 ナイキ、スターバックス、無印良品、資生堂は「ブランドの人格」をどうつくっているのか?
第4回 スターバックスとユニクロは、なぜコーヒースタンドと普段着の常識を覆せたのか?
第5回 ワークシートで分析、スターバックスの「サードプレイス」、ユニクロの「LifeWear」はどのように生まれたか?
第6回 ブランドの「らしさ」を凝縮するネーミングのポイントと、ステートメントの開発法とは

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デザインを、経営のそばに。』(かんき出版)

 おそらく、「デザインというのは特殊な能力の人が天才的なひらめきで思いつくものだ」と思われているように感じます。

 ビジネスにおいて、デザインが有効活用されていない原因の1つに、理論で説明しづらいため、大人数の合意形成を図りにくいということが挙げられます。

 しかし実は、デザインはある程度論理で説明できるものなのです。例えば、色で考えてみると、「クールで賢い印象にするならブルー系を」「情熱的な印象にするなら赤系を」「ポジティブな印象にするなら黄色系を」など、伝えたいイメージを色に変換する際の方程式があります。図形では、「優しく見せたいなら丸い形を」「安定感をつくりたいなら正方形を」「尖らせた印象にしたいなら三角形を」といった具合です。

 私たちデザイナーはこの方程式の組み合わせで、「伝えたいこと」を色やカタチに変換していきます。

 つまり、「伝えたいこと」を可視化する技術がデザインなのです。

 少し難しい言い方にはなりますが、ビジュアルデザインは「視覚言語」と呼ばれることもあります。日本語を英語に翻訳するように、デザイナーは日本語を視覚言語に翻訳しているとお伝えすると、理解しやすいかもしれません。

 つまり、デザイナーとの間で、伝えたいことについての共通認識を持つことができれば、そこから大きく間違えることはありません。

 これまでお会いしたビジネスパーソンの中にも「センスに自信がない」と悩まれる方や、「デザインはわからない」と言われる方もいました。

 しかし、必要なのはデザインのセンスではなく、伝えたいことをデザイナーと共有することです。伝えたいことを正確にデザイナーと共有できれば、色やカタチはプロであるデザイナーが方向性を提示してくれるはずです。

 では、この伝えたいこととは、どのように見つけていくものなのでしょうか。

 実は、伝えたいことを見つけるプロセス自体も、デザイナーの大切な仕事の1つです。

「伝えたいことはこれなので、いい感じにしてください」とオリエンで言われても、デザイナーとしては悩んでしまうことがよくあります。アウトプットを想定してつくられていないオリエンは、色やカタチへの変換が難しいことが多いためです。

 デザインは可視化する技術なので、「色やカタチに変換して、独自性をつくれる要素」は、デザイナーと一緒に見つける必要があります。

 独自性をつくれる要素を見つけるために、私の関わる仕事では、できる限り仕事の上流から関わらせていただくようにしています。きちんとしたオリエンはなくても構いません。

 むしろ、「内容をまとめてからデザイナーに相談しよう」と思わないほうが、うまくいくと思っています。よりよいデザインのためには、ブランドを取り巻く環境や、ブランドのトップの想い、競合ブランドの状況など、様々なインプットが必要です。