TDK株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO 齋藤昇氏(撮影:宮崎訓幸)

 TDKは2024年5月に長期ビジョン「TDK Transformation」、および2027年3月期までの新中期経営計画を発表した。好調なスマートフォン向けバッテリー事業と並ぶ事業の柱として、受動部品、センサー事業の強化を挙げるとともに、コア技術の強みを生かす新事業分野を開拓する。これまでも中核事業を変えながら成長してきた同社が取り組む、次のトランスフォーメーションを支える「人の変革」とは。2022年に同社代表取締役 社長執行役員に就任した齋藤昇氏に聞いた。

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「人のトランスフォーム」に取り組む理由

――今年5月に、2022年の社長就任後初の中期経営計画を発表しました。その中で、一般的には非財務資本といわれている企業価値を「未財務資本」と呼んでいます。なぜでしょうか。

齋藤昇/TDK 代表取締役 社長執行役員CEO

1989年にTDK株式会社に入社。欧州営業統括部長などを経て2011年に執行役員に就任。2015年に戦略本部長として全社経営戦略を担う。2017年にはセンサシステムビジネスカンパニーCEOに就き、2022年に同事業の黒字化を達成。同年に代表取締役 社長執行役員に就任し、現在に至る。

齋藤昇氏(以下・敬称略) 当社は創業以来、テクノロジーの会社であり、磁性材料のフェライト技術をベースにした電子部品、センサーなどの部品を世に送り出してきました。その一方で、今後もお客さまや社会に価値を提供し続けるためには、将来起こるだろう社会のトレンドを察知し、市場の潮流を捉えなければいけません。プロダクトアウト/テクノロジーアウトと、マーケットイン/アプリケーションインのサンドイッチ構造が、大事だと考えています。

 これを実現するために私は、社長に就任した初日から、「全ては人」だと言っています。当社は今後もテクノロジーの会社であることに変わりはありませんが、技術が勝手に生まれてくることはありません。メーカーとして技術を開発し、製品を作るのは人の力であり、マーケティング、営業など、全てが人で成り立っています。社員一人一人が生み出す価値の合計が、TDKとしての企業価値になるのです。

 人の価値、知財などを含めた非財務資本の重要性が注目される昨今、当社では、これらは「非」ではないだろうという意見が強く出ていました。非財務というと、財務でないものという意味合いが強く、ややネガティブな印象もあります。そうではなく、人的価値の向上などは、将来の財務価値に必ずつながるものだという意味を込めて、社外に対しても「未財務指標」と発信しています。

出所:TDK長期ビジョン・新中期経営計画
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――その未財務資本の「人」の要素について、どういったKPIを設けていますか。

齋藤 指標として社員へのアンケート調査によるエンゲージメントスコアと、コミュニケーションのスコアの2点を使用しています。これら2つは業績と相関関係にあると考えていますが、スコアが何%上がれば財務指標が何%上がるといったことを具体的に言えるものでもありません。

 当社では長期ビジョンとして「TDK Transformation」を掲げ、TDK自身が変わることによって、社会の変革に貢献することを目指しています。私も各地の拠点を訪問する際には、自ら社員に対して、「あなたのトランスフォーメーションは何ですか?」と問い掛けています。

 その対話の中では、「じゃあ、社長のトランスフォーメーションは何ですか?」と聞かれるわけですが、私は「自分のコミュニケーションをトランスフォームする」を掲げています。社員との対話だけでなく、経営チーム内のコミュニケーションにも力を入れています。現在、私以外に17名の執行メンバーがいますが、私はその全員と毎月、それぞれ30分の時間を作って1on1のミーティングを実施しています。各メンバーとの本音ベースのミーティングで得られるものは非常に多く、相手の役員にとっても、私に対する理解が深まる双方向の効果を生んでいると思います。