写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 サステナビリティへの対応は、今や最も重要な経営戦略と言っても過言ではない。一方で、コストと収益性、短期目標と中長期目標など、両立を図るのが難しい要素も多く、企業はありたい「未来」に向けて、投資家を巻き込みながら大胆な事業変革を断行していく必要がある。本連載では『サステナビリティとコーポレートファイナンス』(砂川伸幸、山口敦之編著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集(執筆は澤邉紀生と川本隆雄)。サステナビリティに真摯に向き合うレゾナック・ホールディングス(HD)の取り組みを紹介するとともに、財務運営・事業ポートフォリオ戦略の論点を整理する。

 今回は、レゾナックが取り組むROIC経営と事業ポートフォリオマネジメントについて解説する。

レゾナック・ホールディングスの財務運営、資本政策

■ 投下資本利益率(ROIC)を重視し、過度に売上高を追わない姿勢

 2022年2月に公表された「長期ビジョン」において、同社は、2030年に向けて、化学業界でトータル・シェアホルダーズ・リターン(TSR)上位25%の水準を目指すという数値目標を掲げている。これを達成するために、同社は、2025年に向けて、売上で1.6兆円、EBITDAマージンで20%、調整後ネットD/Eレシオで1.0倍を目指している。また、ROICについては、中長期的に10%水準の目標が設定されている。

 2020年12月に発表された当初の「長期ビジョン」では、ROE15%が財務的な数値目標であった。2022年の「長期ビジョン」の見直しに伴い、ROEに代わりROICが主要財務指標と位置づけられた。また、2023年2月の決算発表時に、2025年に向けた売上高目標が1.6兆円から、1兆円に引き下げられた。

 ROEではなくROICを主要指標とした背景には、資本市場からの要請にレゾナックの事業管理体制レベルで応える姿勢を打ち出したものだと理解できる。ROICの目標水準を、加重平均資本コスト(WACC)を上回る10%に設定することで、投下資本×(ROIC-WACC)であらわされる経済的付加価値(EVA)の向上、ひいては企業価値の向上を目指すというのが同社の基本的な方針である。