
サステナビリティへの対応は、今や最も重要な経営戦略と言っても過言ではない。一方で、コストと収益性、短期目標と中長期目標など、両立を図るのが難しい要素も多く、企業はありたい「未来」に向けて、投資家を巻き込みながら大胆な事業変革を断行していく必要がある。本連載では『サステナビリティとコーポレートファイナンス』(砂川伸幸、山口敦之編著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集(執筆は澤邉紀生と川本隆雄)。
今回は、ステークホルダーとのエンゲージメント促進に有効な、戦略管理会計による「戦略の可視化」について解説する。
「資源配分の基本方針」としての経営戦略の可視化

■ ビジネスの言語としての会計
会計学の入門講義では、「会計とはビジネスの言語」であり、ビジネスの世界でコミュニケーションするためには会計(学)を学ぶ必要があるといった説明から入ることが多い。
会計学の初学者は、外国語を学ぶように、会計用語(ボキャブラリー)を暗記し、簿記の仕組みや会計基準(グラマー)を理解しなければならない。これもまた外国語と同じように、当初は意味がわからず苦労していた初学者も、ある水準を超えるとこれまで理解できなかったことがすっと頭に入るようになり、効率的なコミュニケーションを行うことができるようになる。
ビジネス言語としての会計学の重要性は、一定水準以上の会計知識を備えている間でのコミュニケーションでは気づくことがない。空気の存在に気付くのは空気が失われているときであるのと同様に、コミュニケーションの手段としての会計の重要性に気付くのは、会計知識に乏しい相手と対話する場合である。
ビジネス言語としての会計を用いる機会の少ない相手、たとえばパブリックセクターや病院のようなプロフェッショナル組織のリーダーと意見交換するような際には、会計用語を翻訳して伝える必要があったりする。