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 サステナビリティへの対応は、今や最も重要な経営戦略と言っても過言ではない。一方で、コストと収益性、短期目標と中長期目標など、両立を図るのが難しい要素も多く、企業はありたい「未来」に向けて、投資家を巻き込みながら大胆な事業変革を断行していく必要がある。本連載では『サステナビリティとコーポレートファイナンス』(砂川伸幸、山口敦之編著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集(執筆は澤邉紀生と川本隆雄)。サステナビリティに真摯に向き合うレゾナック・ホールディングス(HD)の取り組みを紹介するとともに、財務運営・事業ポートフォリオ戦略の論点を整理する。

 今回は、戦略管理会計の原型「デュポンチャート」とその現代版である「ROIC経営」について詳説する。

戦略管理会計の原型としてデュポンチャートとその現代版としてのROIC経営

■ 戦略管理会計の原型としてのデュポンチャート

 将来ビジョンを全社的な中長期目標として定め、それを実現するための経営資源の配分を可視化する仕組みという意味で、戦略管理会計の原点といえるのがデュポンチャートであり、その現代版がROIC経営である。

 デュポンチャートは総資本利益率(Return on Asset: ROA)の分解、ROIC経営は投下資本利益率(Return on Invested Capital:ROIC)の分解を土台とした経営管理手法である。

 デュポンチャートは、デュポン社が多くの事業を本社が一元的に管理する仕組みとして利用していたものであり、前述のアルフレッド・チャンドラーらの研究によって広く知られている。デュポンチャートでは、全社的な目標は総資本利益率(ROA)として設定されている。

 経営管理システムとしてのデュポンチャートは、ROAの分解と、責任会計制度から構成される。目標ROAを達成するために、ROAを構成している要素に分解していくことで、中長期にわたって実現していくべき全社的な大きな目標を、各現場の日々の行動によって実現可能な小さな短期的な目標へと割り付けていくのが、ROAの分解である。周知のようにROAの分解は、売上高利益率と総資本回転率への分解から始まる。