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 サステナビリティへの対応は、今や最も重要な経営戦略と言っても過言ではない。一方で、コストと収益性、短期目標と中長期目標など、両立を図るのが難しい要素も多く、企業はありたい「未来」に向けて、投資家を巻き込みながら大胆な事業変革を断行していく必要がある。本連載では『サステナビリティとコーポレートファイナンス』(砂川伸幸、山口敦之編著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集(執筆は澤邉紀生と川本隆雄)。サステナビリティに真摯に向き合うレゾナック・ホールディングス(HD)の取り組みを紹介するとともに、財務運営・事業ポートフォリオ戦略の論点を整理する。

 今回は、サステナビリティ対応を組み込んだ、全社戦略としての事業ポートフォリオマネジメントの要点を解説する。

全社戦略としての事業ポートフォリオマネジメント

■ 事業ポートフォリオマネジメント

 資本の配分が行われる対象となる単位は事業である。事業のくくりは、事業戦略によって決定される。首尾一貫した1つの事業戦略によってまとまる範囲が事業であり、大きなセグメントとしてまとめられる場合もあれば、細かな製品やサービスに近い範囲でまとめられる場合もある。規模の大小を問わず、事業としての競争優位を確立維持する道筋である事業戦略に対応して事業の範囲は決定されることになる5

 事業ポートフォリオマネジメントは、事業単位ごとでの事業戦略の存在を前提として展開される。仮説としての事業戦略の成否を確認する指標は、それぞれの戦略によって異なるのが当然である。これはバランススコアカードで用いられるKPIの多様性からも見て取れる。

 前述のように、バランススコアカードでは先行指標としてのIT投資額や人材教育投資額やネットプロモータースコアなどといったプロセス指標などの非財務指標が、遅行指標である財務指標とともに用いられている。

 バランススコアカードは、仮説としての経営戦略の成否を、これら多様な指標を活用することで検討可能にし、経験からの学習を促進するような仕組みとなっている。事業戦略レベルでは、このような現場の実践から事業価値を向上するプロセスが戦略をめぐる学習によって進められる必要がある。

 

5 事業ポートフォリオ戦略の基本的な考え方が、製品ポートフォリオ戦略にも利用できるのは、このためである。経営管理技法的には、製品ポートフォリオマネジメントの手法として開発されたプロダクト・ポートフォリオ・マトリックスが事業ポートフォリオマネジメントに援用されているように、製品ポートフォリオマネジメントの手法が事業ポートフォリオマネジメントに応用されるような形で進んできている。