「ELYZAの子会社化について記者発表するKDDI 高橋誠会長(2024年3月当時社長)
写真提供:共同通信社

 2025年11月、KDDIは2025年4~9月期の連結決算(国際会計基準)を発表。金融や個人向け通信事業の堅調を背景に、純利益は前年同期比8%増の3777億円と増収増益を維持した。同社が近年注力しているのが、「スイングバイIPO」によるスタートアップとの共創モデルだ。中でも東京大学 松尾・岩澤研究室発のAIスタートアップELYZA(イライザ)との協業は、生成AI時代における“日本版オープンAI×マイクロソフト”的パートナーシップとして注目されている。

 東京大学 松尾・岩澤研究室の人気講座を凝縮した『AI経営講座 スーパーエッセンシャル版』(東京大学 松尾・岩澤研究室/PwC Japanグループ著/集英社インターナショナル)の講義「AI時代の共創戦略」から一部を抜粋・再編集。KDDIとELYZAが実践する、企業と研究室発スタートアップの新たな共創の形を探る。

AI時代の共創戦略
――KDDI/ELYZAのケース

AI経営講座 スーパーエッセンシャル版』(集英社インターナショナル)

 KDDIがソラコムと取り組んだ「スイングバイIPO」は、新しい共創の形である。

 M&Aによって連結対象にしたスタートアップが成功していれば、自社の企業価値を高める要素としてそのまま株式を保有しておくほうが得策と考えるのが普通だろう。

 しかし、KDDIはソラコムとしてのグローバルプラットフォーマーとしての価値を高め、さらに大きな成功を手にするためにこの形を推進した。

 具体的に、スイングバイIPOとは何か。

 スイングバイとは宇宙の専門用語で、宇宙の探査機が惑星の引力を利用しながら加速してさらなる宇宙空間に飛び出していくことを意味する。

 KDDIは連結対象にするスタートアップをロケットに見立て、KDDIの基盤や資産をうまく使ってもらいながら企業価値を上げてもらい、世界に飛び立ってもらうことを意識している。

 スイングバイIPOを考案したのは、KDDI代表取締役社長(当時・現在は代表取締役会長)の高橋誠と、実際にスイングバイIPOで上場したソラコムの玉川憲社長だ。