写真提供:Artur Widak/NurPhoto/共同通信イメージズ、Joan Cros/NurPhoto/共同通信イメージズ

 いまや、セールスフォースやマイクロソフトといった欧米のBtoB大手が 巨額の予算をABM(アカウント・ベースド・マーケティング)に振り向けており、この手法は「最優先で取り組むべきマーケティング戦略」に位置付けられている。個社ごとの意思決定構造を深く理解し、重要顧客の収益向上を狙うこのアプローチが浸透してきた背景には、各社の成功事例の積み上げがあった。ABMの歴史を踏まえ、日本企業が再び成長軌道を描くための示唆は何か。長年BtoBマーケティングに携わる庭山一郎氏が解説する。

バズワードと思われていたABMは今やBtoBの本流へ

 特定の重要顧客と最良の関係を築き、利益の最大化を目指すABM(アカウント・ベースド・マーケティング)は、今では、マーケティング先進国、とりわけ米国や欧州の中堅以上の企業において、「最優先で取り組むべきマーケティング戦略」となっています。日本に現地法人を展開する外資系企業では数年前から、「本社への予算申請は、ABMに関係する予算以外ほとんど通らない」という声すら聞かれるほどです。

 2023年に米国で開催されたマーケティングカンファレンス「The Flip My Funnel Conference」では、パネルディスカッションに登壇した大手企業のCMO(最高マーケティング責任者)に対し司会者が、

「なぜABMはここまで重要な存在であり続けているのですか?」

と質問しました。

 CMOは、「何をいまさら」といった表情で、短くこう答えました。

「成果が出るからよ」

 そう、ABMは成果が出るのです。しかし、その認識が広く共有されるまでには、一定の時間を要しました。

ABMは最初から評価されていたわけではない

 ABMは、最初からBtoBの本流として評価されていたわけではありません。

 ABMという言葉が初めて登場したのは、IT産業にフォーカスした米国のアナリストファーム、ITSMA(現Momentum ITSMA)が2003年頃に発表したレポートといわれています。しかし、当初すぐに普及することはありませんでした。ABM関連のワードがインターネット検索で上昇してきたのは、10年後の2013年ごろからだったと認識しています。

 当時の反応は、むしろ否定的なものが多かったのです。

「また新しいバズワードが出てきたね」
「特に新しい概念ではないし、何もビッグアイデアはないよね」
「普通のアカウントセールスと何が違うの?」

 米国のマーケティング系メディアでも、「ABMを学ぶべきか、いまだ分からない」と懐疑的な論調が見られました。