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 もはや明るい未来はない。人口減少下で経済成長はできない、この状況は変えられない…そんな悲観論が蔓延する日本。これから「成長」していくには価値循環こそがカギとなる。本連載では、『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(デロイト トーマツ グループ/日経BP)の一部を抜粋、再編集。日本社会に存在する壁を乗り越えて、「今日より明日が良くなる」と実感できる社会を実現するための具体的な道筋を見ていく。

 第4回は、業界内で唯一無二の存在となった「シマノ」の例を紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
第2回 「一人負け」している日本の賃金上昇率、賃上げを実現するための付加価値とは?
第3回 SBSホールディングスは、なぜ「1人当たり付加価値」を年平均10%増加できたのか?
■第4回 自転車界のインテル、世界最大手の自転車部品メーカー・シマノはなぜ高成長を遂げたのか(本稿)
第5回 顧客に選ばれ続けるオイシックス・ラ・大地の、戦略的なデータ活用法とは?
第6回 なぜ日本では、ウーバーのような「共創」ができないのか? 「モビリティー大国」への進化を阻む「3つの壁」
第7回 もはや提供すべき価値は「移動機能」にあらず、「生活者目線」で描く地域単位のモビリティーデザインとは?
第8回 異業種間データ連携で新たなモビリティーサービスを実現、「クックパッドマート」の「共助」実践事例

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アイコン化 シマノ
「自転車部品といえばシマノ」業界内で圧倒的地位を確立

「差異化」によって業界内で唯一無二の存在になり、高成長を遂げた企業がある。それはシマノだ。

 シマノは1921年創業の自転車部品や釣具を手掛けるメーカーである。現在では従業員1万1364人(2022年12月末時点)を誇り、1人当たり付加価値は、2016~2022年の7年間で年平均11.4%増加している。2022年は過去最高益を記録するなど、創業から100年を超える現在でも高い成長ペースを持続している。

 具体的には、スポーツ自転車向け部品で世界トップのシェアを占め、世界最大手の自転車部品メーカーとして圧倒的なポジションを確立している。同社の部品は普及価格帯の自転車から高級価格帯のスポーツ自転車まで、世界中のあらゆる自転車に搭載され、「自転車界のインテル」と呼ばれるほどだ。同じ輸送機器である自動車業界では完成車メーカーが注目されがちだが、シマノは製品を「差異化」することで顧客からの支持を得て、部品メーカーでありながらもその名を轟かせるようになった。

 それでは、シマノが「差異化」できたのはなぜだろうか。その要因は、1970年代の「コンポーネント」による業界での地位確立と「顧客インサイトを基にした製品開発」にある。

■ 差異化:「コンポーネント」という新たな発想

 自転車ブームが起きた1950年代、1960年代。当時の自転車業界では、個社ごとに縦割りで部品供給を行う商慣習が存在した。各部品メーカーは分野ごとに専業化して製造しており、完成車メーカーは各社から好みの部品を寄せ集めて組み立てるケースが多かった。それゆえに自転車全体としての性能を飛躍的に高めることが難しかった10

10. 東 正志, 横井 克典 (2013), 「部品サプライヤー特性の産業間比較」

 そんな中、シマノは1970年代の欧州進出に当たり、競合他社よりも高性能な部品を供給する必要があった11。そこで、縦割りの部品供給という商慣習を取り払い、部品一式を掛け合わせる「コンポーネント」という新たな発想が生まれた。

11. 山口 和幸 (2003), 「シマノ 世界を制した自転車パーツ」, 光文社

 コンポーネントとは、個別に製造・販売されていた部品(変速機、ブレーキ、チェーンホイールなど)を組み合わせて提供することを指す12(上図)

12. 「“Beyond Digital” シマノが拓く新境地」, ダイヤモンド・オンライン, 2021年4月12日:https://diamond.jp/articles/-/266329

 部品同士が相互に機能するように設計を最適化することで、単品部品では到底なし得ないような新しい機能や性能を実現し、競合他社との「差異化」に成功した。このコンポーネントは、それまでの自転車業界の常識を覆す発想であり、これがシマノの成長の大きな要因となった10

10. 東 正志, 横井 克典 (2013), 「部品サプライヤー特性の産業間比較」

 完成車メーカーからすると、細かい部品同士の複雑な調整をすることなく高い性能を発揮できるため、シマノの部品が欠かせない存在となった。完成車メーカーはシマノの部品を採用することを前提に開発するとまでいわれている。