写真提供:日本農業新聞/共同通信社

 もはや明るい未来はない。人口減少下で経済成長はできない、この状況は変えられない…そんな悲観論が蔓延する日本。これから「成長」していくには価値循環こそがカギとなる。本連載では、『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(デロイト トーマツ グループ/日経BP)の一部を抜粋、再編集。日本社会に存在する壁を乗り越えて、「今日より明日が良くなる」と実感できる社会を実現するための具体的な道筋を見ていく。

 第1回は、「個」を豊かにすることで好循環を生み、日本全体の成長を促す構想を解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?(本稿)
第2回 「一人負け」している日本の賃金上昇率、賃上げを実現するための付加価値とは?
第3回 SBSホールディングスは、なぜ「1人当たり付加価値」を年平均10%増加できたのか?
第4回 自転車界のインテル、世界最大手の自転車部品メーカー・シマノはなぜ高成長を遂げたのか
第5回 顧客に選ばれ続けるオイシックス・ラ・大地の、戦略的なデータ活用法とは?
第6回 なぜ日本では、ウーバーのような「共創」ができないのか? 「モビリティー大国」への進化を阻む「3つの壁」
第7回 もはや提供すべき価値は「移動機能」にあらず、「生活者目線」で描く地域単位のモビリティーデザインとは?
第8回 異業種間データ連携で新たなモビリティーサービスを実現、「クックパッドマート」の「共助」実践事例

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はじめに

 はじめにショッキングなデータをご紹介しよう。

 7.7%――。これは、内閣府の「国民生活に関する世論調査」(2022年度)にある「あなたのご家庭の生活は、これから先、どうなっていくと思いますか」という質問に対して、「良くなっていく」と答えた人の割合だ(図表0-1)。裏を返せば9割以上の人が、将来の暮らし向きについて、どんなに良くても「現状維持」が精一杯と考えているのだ。これが、今の日本を覆っている「空気」である。

 人口減少と少子高齢化により、日本経済の長期衰退の流れは止めようがない、という悲観論は根強い。果たして、人口減少の流れが不可避な中で、一人ひとりが「明日は今日よりも良くなる」と感じて希望を持って生きていくことはできないものだろうか。

 私たちデロイト トーマツ グループは、昨年刊行した『価値循環が日本を動かす〜人口減少を乗り越える新成長戦略(2023年、日経BP、以下前著)において、人口増加に依存しない経済成長のあり方を提唱した。価値循環とは、人口が減少する環境下でもヒト・モノ・データ・カネのリソースを「循環」させることで付加価値を高めて成長できる、という考え方であり、人口減少の悲観論からの脱却を促すものだ。

 本書『価値循環の成長戦略』は、前著の考え方をより推し進めて、人口減少下で「個の豊かさ」をいかに高めるかに主眼を置いて提言を試みる。

 人口減少の時代こそ、人の数ではなく「個」に目を向ける“好機”と捉える新たな発想を持つべきではないか。それが本書の時代認識である。人口が減るということは、一人ひとりの存在価値、いわば「希少性」が高まることを意味する。

 これまで日本は、ともすると「全体」の規律や効率性を優先してきたが、その一方で、一人ひとりの可能性の実現や豊かさの実感という点では立ち遅れてきた。近年においてダイバーシティーやウェルビーイングが注目されていることは、その裏返しでもある。これからの時代は、一人ひとりの付加価値や個人としての豊かさに軸足を置き、「質的な成長」を最優先で追求するモデルに転換することが求められているのだ。