もはや明るい未来はない。人口減少下で経済成長はできない、この状況は変えられない…そんな悲観論が蔓延する日本。これから「成長」していくには価値循環こそがカギとなる。本連載では、『価値循環の成長戦略 人口減少下に“個が輝く”日本の未来図』(デロイト トーマツ グループ/日経BP)の一部を抜粋、再編集。日本社会に存在する壁を乗り越えて、「今日より明日が良くなる」と実感できる社会を実現するための具体的な道筋を見ていく。
第3回は、高成長企業の分析から見えてきた成長パターンの具体例を紹介する。
<連載ラインアップ>
■第1回 愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
■第2回 「一人負け」している日本の賃金上昇率、賃上げを実現するための付加価値とは?
■第3回 SBSホールディングスは、なぜ「1人当たり付加価値」を年平均10%増加できたのか?(本稿)
■第4回 自転車界のインテル、世界最大手の自転車部品メーカー・シマノはなぜ高成長を遂げたのか
■第5回 顧客に選ばれ続けるオイシックス・ラ・大地の、戦略的なデータ活用法とは?
■第6回 なぜ日本では、ウーバーのような「共創」ができないのか? 「モビリティー大国」への進化を阻む「3つの壁」
■第7回 もはや提供すべき価値は「移動機能」にあらず、「生活者目線」で描く地域単位のモビリティーデザインとは?
■第8回 異業種間データ連携で新たなモビリティーサービスを実現、「クックパッドマート」の「共助」実践事例
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高成長企業の分析から見えてきた3つの成長パターン
1人当たり付加価値高成長企業の成長パターンについて、2つの戦略軸に基づいて類型化すると、「共通化」を通じて頻度(回転)を増すことに重きを置くパターンの「ライフライン化」、「蓄積」をてこに「差異化」を通じて価格を高めることに重きを置くパターンの「アイコン化」、それらの中間に位置するパターンとなる「コンシェルジュ化」という3つのパターンに分類することができた(下図)。
1つ目の成長パターンは「ライフライン化」だ。特定分野で幅広い製品・サービスのラインアップをそろえ、それらを持続的・安定的に供給する体制を整えて顧客接点を拡大し、顧客の仕事や生活に「不可欠な存在」となる。これにより取引頻度を向上させ、付加価値を高めるという成長パターンである。このライフライン化で1人当たり付加価値を高めるには、経営インフラや業務プロセスをできるだけ「共通化」し、継続改善を実現することなどが重要となる。
2つ目は「アイコン化」だ。特定分野で圧倒的な技術知見や顧客に関するインサイトを蓄積し、それらに基づいて製品・サービスの独自性を高めて、顧客にとっての「唯一無二の拠り所」となることを目指す。これにより取引単価を向上し、付加価値を高める。その実現には常に顧客の声に耳を傾け、長年にわたり蓄積された自社独自の強みに磨きをかけることが重要になる。さらに、そこに新たな要素を掛け合わせて、競合との「差異化」につながるイノベーションを生み出すことを目指す。
3つ目の「コンシェルジュ化」は「ライフライン化」と「アイコン化」の両方の取り組みを融合しつつ、取引頻度と取引単価の両方を同時にバランスよく向上させて付加価値を高める成長パターンだ。このパターンを進めるには、顧客との継続的な取引関係を構築し、顧客の購買履歴や嗜好などのデータを蓄積して、提案力・企画力の継続的な向上を図ることで、顧客層の「囲い込み」と拡大を推進することなどが求められる。
以上の3つの成長パターンはあくまでも基本類型であり、実際には、経営戦略の両軸となる「共通化」と「差異化」のどちらにどの程度重きを置くかによって、様々なバリエーションがあり得るだろう。各企業には、自社を取り巻く顧客ニーズや市場環境などに即して、これらの間の最適なバランスを見極めることが求められる。
以下では、3つの成長パターンがどのように実践され、1人当たり付加価値を高めてきたのか、特徴的な企業を題材として具体的に見ていこう。