電子機器になくてはならないプリント基板の絶縁材料「ソルダーレジスト」で世界シェアトップの太陽ホールディングス(以下、太陽HD)。技術に強みを持つB2B製造業だが、DXの取り組みは早いとは言えなかった。外部からCDOとして赴任した俵輝道氏は、粘り強い対話と大胆な改革でデジタルの重要性を社内に説いて回る。俵氏が求めるデジタル人材像とは。
デジタルは目的ではないが、やらなければ明日はない
――俵さんは太陽HDでDXの推進役を担われています。これまでのキャリアでは、自ら起業したり、大手企業の新規事業立ち上げなどに参加されてきましたが、太陽HDに入社したきっかけは何だったのですか。
俵輝道氏(以下・敬称略) 私は大学を出て日本の財閥系メーカーで海外戦略を担当した後、米国のビジネススクールで学び、リスクを取って日本の経済に貢献したいと考えてスタートアップを経営しました。その企業を売却した後、今度はミスミという事業会社で金型部品関連の事業統括ディレクターや米国企業とのPMI事業を担当しました。そして前職は、アマゾンジャパンで2つの事業部の事業部長を務めました。
いろいろやってきましたが、その後、自分のオリジンである日本のB2B製造業でこれまでの経験を生かしたいと考えるようになり、太陽HDに入社しました。
当社は一言で言うと総合化学メーカーですが、電子回路が搭載されるプリント基板の表面を覆う緑色の絶縁材料である「ソルダーレジスト」で世界シェアトップクラスを維持している他、医療・医薬品事業も成長を続けています。その成長をさらに持続的にするために力を尽くしたいと思いました。また当社は、売上高が1000億円程度と巨大企業というわけではありません。そのため経営者との距離が近く、役員全員とも話をしてこの会社であれば、自分の力を発揮できると考え、入社を決めました。
実は、入社当初は別の仕事を担当する予定だったのですが、入社後、社内の勉強をしているときに当社社長の佐藤から、「デジタルのリーダーをやってほしい」と言われ、現在のCDOに就任しました。
――CDO就任後、早速DX戦略を打ち出しましたが、太陽HDのデジタルへの取り組み、意識はどのように感じたのでしょうか。
俵 正直、デジタルやデータ活用への意識は、あまり高いとはいえませんでした。そこで、手を変え品を変え、デジタルの浸透を図っています。
よく言われる通り、デジタルは手段であり、目的ではありません。これを取り違えないようにしなければいけません。当社固有の戦略や、あるべき姿に向かうために必要な手段であることを常に意識しています。
ただし、手段ではありますが、デジタルは今の企業運営に不可欠なものと考えています。当社は化学メーカーなので、一見するとデジタルの影響は少ないように思われるかもしれませんが、製造をはじめ業務のあらゆる部分で、デジタルを活用するかしないかで生産性の圧倒的な差が出てくると思います。製造業では、セキュリティーの問題でデジタルにあまり積極的でない企業もあると聞きますが、問題が起きないように工夫して、試行錯誤しながらデジタルを導入していかなければ、全ての企業に明日はないと考えています。
だからこそ、ここから本気でやっていかなければいけないという覚悟です。