写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
多様な知を融合し、価値観・考え方・やり方を柔軟に変えていく――その日本人らしい特性こそ、再び世界で輝く鍵になる。日米の研究者が105社のトップにインタビューし、新たなリーダーシップと経営革新の深層を探った話題書『ジャパン・ウェイ』(池上重輔著・監訳/ハビール・シン、マイケル・ユシーム著/渡部典子訳/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集。企業文化をどう変え、日本企業をどう再生するか、そのヒントを探る。
島村琢哉前社長の下、ガラス依存を脱して素材企業へ転換したAGC。両利きの経営で新市場探索と既存事業強化を両立し、再興を図った全社変革の舞台裏とは?
AGC――ガラスメーカーを材料技術の会社に生まれ変わらせたCEO
『ジャパン・ウェイ』(日経BP 日本経済新聞出版)
両利きの経営とそれによる復活の価値は、AGC(旧旭硝子)が再興に取り組んだ事例に見ることができる。AGCは日本で最も古いガラス会社のひとつであり、幅広い産業や消費者向けのガラス製品を主力事業として数十年にわたって力強く成長し、1990年代に世界最大級のガラス関連製品メーカーとなった。
ところがその後、2000年代にかけて、ガラス製品に長年特化してきたことが経営上の懸念事項となった。自動車のフロントガラスなど業務用の安価な中国製ガラスが台頭し、AGCをはじめ業界全体で収益が減少していったのだ。過去20年間で世界のガラスメーカーのうち40社以上が市場から撤退し、残った企業も存続の危機に直面していた。
新たにAGCの社長に就任した島村琢哉氏は、停滞状況から抜け出そうと決意した。慶應義塾大学出身の島村氏は1980年にAGCに入社し、2015年に社長に就任した。同社が手掛けるのは建築用ガラス、自動車用ガラス、コンピュータ・ディスプレイや半導体材料など電子材料だ。いずれも順調に推移し、有望な市場に見えるが、低成長と薄利多売の一因でもあることに島村氏は危機感を募らせていた。
たとえば、液晶ディスプレイ事業はもともと収益性が高く、2010年に最高利益を記録したが、その後の10年で安価な海外の代替品が出てきて利益は急落していた。AGCは依然として世界最大のガラスメーカーだったが、売上と利益は低下の一途をたどっていた【注3】。
3 AGCの進化の議論は、加藤、オライリー、シェーデの共著書、会社資料、島村琢哉氏へのインタビュー、財務諸表を参照した。







