写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
多様な知を融合し、価値観・考え方・やり方を柔軟に変えていく――その日本人らしい特性こそ、再び世界で輝く鍵になる。日米の研究者が105社のトップにインタビューし、新たなリーダーシップと経営革新の深層を探った話題書『ジャパン・ウェイ』(池上重輔著・監訳/ハビール・シン、マイケル・ユシーム著/渡部典子訳/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集。企業文化をどう変え、日本企業をどう再生するか、そのヒントを探る。
日立製作所は2009年度に7870億円の赤字を計上後、IoTを事業の中核に据えた戦略「ルマーダ」を軸に、事業再編とジョブ型人事を進めた。大企業病をどう克服し、再成長を遂げたのか。
日立製作所――大企業病を克服した新たな“規律”
『ジャパン・ウェイ』(日経BP 日本経済新聞出版)
RJ(毅然たる日本企業の経営)モデルの現場をさらに見ていくため、40万人近い従業員を擁し、世界的にブランドが認知されている巨大コングロマリットの日立製作所(以下、日立)を取り上げたい。同社は情報技術(IT)、クラウド・コンピューティング、建設、エレクトロニクスなど幅広い事業を展開している。
2008年のリーマン・ショック後、日立は2009年度に日本の製造業では過去最大となる7870億円の赤字を計上した。その後、現在の小島啓二氏までに川村隆氏、中西宏明氏、東原敏昭氏の3人の経営者が日立の再生と改革に取り組み、さまざまなRJ的手法を導入してきた【注12】。
2014年から2021年まで社長を務めた東原氏は、JTCモデルがもはや最適ではなくなったため、従来の原則から脱却し、RJモデルの要素の多くを取り入れようと努めた。「日立が再び赤字に転落するのではないかという強い危機感を持っていました。大企業病を根絶できず、他人任せで何とかなるという緩みのある風土が蔓延していたからです」。あまりにも階層的で、方針はトップダウンで降りていくものの、現場からのボトムアップの活動はそれほど奨励されていなかった。
そこで東原氏は2016年にあらゆるモノがネットにつながる「IoT」を事業の中核に据えた新戦略へと日立を変えていった。「Lumada(ルマーダ)」と名付けたこの戦略は、どの事業を維持し、どの事業を売却するかという意思決定に新たな規律をもたらした。
12 中西は日本経済団体連合会の元会長でもある。







