写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
多様な知を融合し、価値観・考え方・やり方を柔軟に変えていく――その日本人らしい特性こそ、再び世界で輝く鍵になる。日米の研究者が105社のトップにインタビューし、新たなリーダーシップと経営革新の深層を探った話題書『ジャパン・ウェイ』(池上重輔著・監訳/ハビール・シン、マイケル・ユシーム著/渡部典子訳/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集。企業文化をどう変え、日本企業をどう再生するか、そのヒントを探る。
取締役会を、それまでの儀礼的な「シャンシャン会議」から、「議論」と「意思決定」の場へ変革した豊田通商。前社長の加留部淳氏が取り組んだ社外取締役の拡大や運営改革の狙いと成果とは?
豊田通商――伝統に縛られないハイブリッド型への移行
『ジャパン・ウェイ』(日経BP 日本経済新聞出版)
豊田通商はトヨタグループの総合商社として長年事業を展開してきた。商社はどちらかというと日本独自の業態で、欧米ではあまり知られていないが、幅広い製品や資材の売買、工場建設、物流手配、大企業や関連企業への投融資業務などを手掛けている。三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、住友商事、丸紅、豊田通商が2023年末時点の時価総額の上位6社だ【注12】。
2000年代、豊田通商の業績はそれなりに好調だった。日本有数の大企業グループの一角を担い、時価総額は5000億円を超えるようになっていた。しかし、2011年に新たに社長に就任した加留部淳氏にとって、好調な業績が続いていることは大きなチャレンジとなった。トヨタ自動車との取引を主体とした戦略を維持することが順当な方向性であったが、豊田通商には新しい哲学を受け入れる準備が整いつつあった。
加留部氏は、伝統的な自動車中心の構造から脱却し、他の企業や地域にもその能力を発揮するために新しい事業分野を開拓する長期計画を打ち出した。ただし、過去と決別することと、そこから新たに築き上げることは別物だ。加留部氏は、自分の過去や会社の伝統に縛られない新体制を経営の最前線に立つ立場を活かして導入することにした。
新しい経営モデルをつくるために、加留部氏は国内外の著名大学に新世代の管理職育成カリキュラムづくりを依頼し、経営幹部、中堅管理職、新入社員向けに異なるコースを設けた。中堅管理職向けプログラムでは基本的な経営原則を、幹部向けプログラムではグローバル・リーダーシップの原則を扱う。
12 豊田通商の筆頭株主(2023年12月24日時点)はトヨタ自動車である。







